あいさつ

 情報革命が進むなか、ニュースを取材し、届ける役割を担ってきた新聞業界は、「信頼」と「ビジネス」の危機にさらされています。また、噓やフェイクが氾濫し、正しい情報に基づいて主権者が選択をするという民主主義社会の基盤が揺らいでいます。時代の転換点にある今、日本の新聞産業で唯一の産業別労働組合である私たちは、将来世代も魅力を持って働ける環境を支えるネットワークづくりを進めています。

 取材中の記者に対する暴力・ハラスメントや質問制限、「捏造」というレッテルを貼る報道や記者への中傷など、メディアを取り巻く環境は厳しさを増しています。こうした動きに対して、新聞労連は会社の枠を超えた救済に取り組んでいます。記者個人や個々の会社の問題ではなく、市民の「知る権利」や「報道の自由」に対する攻撃だからです。日本の「報道の自由」を調査した国連特別報告者も、新聞労連の取り組みについて、市民とメディアの連帯を強化するものとして評価するようになっています。

 2018年、メディア業界に意識変革を迫る二つの出来事が起きました。

 一つは、「働き方改革関連法」の成立です。問題点を多く含んだ法律ですが、メディア業界で起きた違法残業や長時間労働に起因する悲劇を繰り返さないために、経営陣に本格的な働き方の見直しを促すきっかけになりました。もう一つは、財務事務次官による放送記者に対するセクシュアルハラスメントです。被害者の勇気を持った告発で明るみに出ましたが、権力関係に根ざした人権侵害にこれまで沈黙を強いてきた問題が浮き彫りになりました。

 「男性稼ぎ主モデル」を中心に組み立てられた日本社会のなかで、新聞業界においても、長時間労働を前提にした無理な働き方を強いられるなかで、人権侵害や多様性をないがしろにする風潮が少なからずありました。いまこそ、そうした構造を転換するため、社会の意識を形作る新聞業界から変わっていかなければなりません。

 その第一歩として、新聞労連は男性に偏りがちだった意思決定の場のジェンダーバランスの改善を進めています。2019年1月の臨時大会で、公募による「特別中央執行委員(いわゆる女性役員枠)」を設ける規約改正を行い、女性の役員を大幅に増員する仕組みを作りました。同年7月の定期大会では、全国から応募した8人の女性を特別中央執行委員に選出し、既存枠の内定者を含めると、女性役員が3割以上となりました。これまで以上にさまざまな感覚を採り入れ、多様性と活力のある職場づくりを目指します。

 2019年1月、沖縄県宮古島市の地域紙「宮古新報」で、セクハラ・パワハラを繰り返すことの責任を追及された社長(当時)が一方的に社員全員の解雇を通知する事件が起きました。新聞労連の加盟単組・地連が一丸となって取り組み、労働組合による新聞の自主発行を続けた末に事業譲渡にこぎ着け、全員の雇用確保・紙面発行継続を勝ち取りました。人権侵害であるハラスメントと決別し、読者のための情報発信へ取り組むという倫理観や使命感は、市民の共感を呼び、私たちも新聞の価値・存在意義を改めて実感することになりました。

 このような闘いを支えるのが、新聞労連のネットワークです。

 危機を認識しながら、変えることができないという「組織の危機」に陥ってはなりません。合言葉は「ネクストジェネレーション」。将来世代が魅力を感じられるような持続可能な環境をつくることによって、困難な状況にある仲間を助けながら、あらゆる人の働きやすさやチャレンジを支えるネットワークをみんなでつくりあげていきましょう。

2019年8月 新聞労連中央執行委員長 南 彰