ニュースはインターネットで知る時代-。そう言われて久しい昨今ですが、そのニュースはどこから生まれているのでしょう。ネット業界を牛耳る巨大プラットフォーマーが自ら取材をすることは、ほとんどありません。ネットに流通しているニュースの多くは、新聞社・通信社の第一線で働く記者が靴底をすり減らし、全国津々浦々の人々と会って書いた記事なのです。

 新聞労連は全国86組合約1万8千人の新聞労働者が結集する組織です。記者だけでなく、販売、広告、総務、印刷、デジタル部門など、民主主義社会の基礎インフラである新聞の発行を支えるため、多様な職場で働いている仲間が集っています。その全員が「正確なニュースを読者に届ける」という志を共有しています。

 新聞の発行部数がピークだったのは1997年の5376万5千部(朝夕刊セットを1部として計算、日本新聞協会調べ)。2021年には3302万7千部に落ち込みました。この四半世紀の業績悪化の中、新聞経営者はあの手この手の人件費カットで「人への投資」を怠り続けました。その一方で、新聞業界に染み付いた長時間労働やハラスメント体質は温存されています。夢を抱いて入社した若手や、働き盛りの中堅、経験豊富なベテランが、変わろうとしない会社に絶望し、次々と離職しています。縮小思考にとらわれ、急場をしのぐことに精一杯な経営者に任せていては、負のスパイラルは続きます。新聞労連は22年初頭から全国の組合員に呼び掛けて「新聞の未来プロジェクト」を始めました。幅広い世代が元気に誇りを持って働き続けることができる新聞業界であるために、新聞産業の持続可能性や、報道の公共性といった観点から議論を続けています。

 長時間労働やハラスメント体質が蔓延する背景には、新聞業界の男性中心的な職場風土があります。子育てや介護など家庭の事情を軽視する均一化した価値観から生まれるニュースは、市民に支持されるでしょうか。新聞社・通信社の女性管理職の割合は依然として低く、社内の意思決定層のジェンダーバランスはいびつな状況です。ジェンダー平等を欠いた現状を打開するきっかけにしようと、新聞労連は19年から公募の女性組合員10人による特別中央執行委員制度を始めました。従来の中央執行委員会のメンバーは約20人。大半が男性でした。そこに10人の女性が加わることで、全体の3分の1が女性となり、議論の質的向上につながっています。

 特別中央執行委員制度を始めたきっかけは18年の財務事務次官による女性記者へのセクハラ問題でした。旧態依然の体質を変えたいという切実な思いが新制度の実現という形で結実しました。特別中央執行委員はその後、長崎市幹部職員による性暴力被害を受けた女性記者が同市に損害賠償を求めた長崎地裁での訴訟の支援や、22年3月に発行した「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」(小学館)の編集でも中心的な役割を果たしました。22年1月の新聞労連臨時大会で採択した「ジェンダー平等宣言」では、「誰もが平等に個性と能力を発揮できる組織づくりや多様性ある社会づくりに向けて行動します」との決意を掲げました。

 新聞業界の厳しい現状を打開する主役は、現場で汗を流し、知恵を絞って働く労働者です。読者、市民の応援も欠かせません。民主主義社会の基盤となる多様で健全なメディア環境を作り出し、未来につなげていく―。新聞労連は、そんな思いを共有した全国の仲間たちでつくる組織です。

              2022年11月 新聞労連中央執行委員長 石川昌義(中国新聞労組出身)