メディアのデジタル化が進む中、新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、新聞業界はより一層の「ビジネス」の危機にさらされています。その結果として、自主自立におけるジャーナリズムの基盤が揺らぎ、民主主義が脅かされることになってはいけません。新聞業界は、社会に生きる人々が、自ら判断し議論していくために、多様な視点から正しい情報を提供する役割を求められています。新聞産業で働く者たちが加入する産業別労働組合である私たちは、将来世代が希望をもって働ける職場環境を目指し、さらに結束して幅広い活動を実践していきます。

 記者に対する暴力やハラスメント、「ねつ造」などのレッテル貼り、報道や記者への中傷など、メディアで働く環境は厳しさを増しています。これに対して、新聞労連は会社の枠をこえて、救済に取り組んでいます。記者個人や個々の会社の問題ではなく、市民の「知る権利」や「報道の自由」に対する攻撃だからです。日本の「報道の自由」を調査した国連特別報告者も、新聞労連の取り組みについて、市民とメディアの連帯を強化するものとして評価するようになっています。

 また、政府や行政機関は、法律や制度などにのっとって、社会に向けて、行政行為や政策について説明する責任があります。2021年は情報公開法施行から20年、公文書管理法施行10年を迎えますが、政府や行政機関による行政文書の不作成、破棄などによる不存在などの深刻な問題が噴出し、適正な運用が行われていない事例が露見しています。これらの不健全な運用は、「知る権利」をないがしろにしている行為です。さらに、取材や事実確認の裏付けにもなる資料の不存在や否定については、報道の根幹が揺らぎかねません。情報公開や公文書管理の課題に限らず、日々の取材や記者会見なども、行政が「知る権利」に応えているかどうかについて、メディアとして実態を把握し、問題点を追及していきます。

 2018年に成立した「働き方改革関連法」や現場から救済を求める声が相次ぎ、違法残業や長時間労働に起因する悲劇を繰り返さぬよう、「働き方」を見なおす動きが広がっています。新聞労連は、過重な労働を「美徳」とするような従来の働き方を追及し、会社側に是正に向けた制度設計を要求しています。また、同年には警察や行政機関など取材先から記者へのセクシュアルハラスメント被害の実態が顕在化しました。長年、会社や周囲が権力関係に根差した人権侵害に対して、沈黙を強いてきたのです。それらに端を発し、社内外のハラスメントの問題に光が当たるようになりました。しかし、実態把握は進みつつも、会社側から是正にいたる明確なプロセスがなかなか示さず、被害は続いています。新聞労連では、共通課題として、情報を共有しながら、実行力のある制度を提案し、要求していきます。

 新聞業界において、長時間労働やハラスメント被害などを生み出したものとして、高度経済成長時に日本社会において推進された「男性稼ぎ主モデル」「性的役割分業」により培われた企業風土があります。これまで、長時間労働を前提にした無理な働き方を強いられるなかで、人権侵害や多様性をないがしろにする風潮が少なからずありました。いまこそ、そうした構造を転換するため、社会の意識を形作る新聞業界から変わっていかなければなりません。変わらない体質がメディアのコンテンツとして社会に影響を及ぼしたり、男性優位主義的で多様性に欠ける職場風土に嫌気がさして辞める若手職員を生み出したりしかねません。「男性稼ぎ主モデル」を中心に組み立てられた日本社会のなかで、新聞業界においても、長時間労働を前提にした無理な働き方を強いられるなかで、人権侵害や多様性をないがしろにする風潮が少なからずありました。いまこそ、そうした構造を転換するため、社会の意識を形作る新聞業界から変わっていかなければなりません。

 その第一歩として、新聞労連は男性に偏りがちだった意思決定の場のジェンダーバランスの改善を進めています。2019年1月の臨時大会で、公募による「特別中央執行委員(いわゆる女性役員枠)」を設ける規約改正を行い、女性の役員を大幅に増員する仕組みを作りました。この制度によって、2020年9月には全国から応募した10人の女性を特別中央執行委員に選出し、女性役員が3割以上となりました。特別中央執行委員の提案から、職場のジェンダー格差の是正や新聞編集におけるジェンダー表現や性暴力被害者の取材などについて、現場の事例に即した指針づくりを進めています。また、メディアの労働組合とともに、会社内の意志決定機関における女性比率を高めるため、業界団体に要求をしています。

 新聞労連では、ネットワークをいかして、さまざまな問題、争議を解決しています。2019年1月には、沖縄県宮古島市の「宮古新報」で、セクハラ・パワハラを繰り返すことの責任を追及された社長(当時)が一方的に社員全員の解雇を通知する事件が起きました。単組、地連、本部が団結し、解決に向けて継続的な支援活動を行いました。新聞労連は困っている仲間に寄り添い、ともに問題解決に向かって進みます。取りこぼしのない救済を進めるよう、努めていきます。

 新聞は誰のものでしょうか。

 社会のみんなのものです。ジャーナリズム、メディアは健全な民主主義にはなくてならない存在です。新聞産業で働く私たちは、社会的役割を自覚し、維持することが求められています。また、新聞産業で働く者たちが「働きづらい」「生きづらい」と感じるようであれば、おのずとジャーナリズムも衰退していくでしょう。危機を認識しながら、変えることができないという「組織の危機」に陥ってはなりません。現在現場にいる世代も、将来世代も、とも希望と魅力を感じられるような持続可能な環境をつくることが求められています。労働組合による横につながる「平たい関係」を生かし、困難な状況にある仲間を助け、あらゆる人の働きやすさやチャレンジを支えるネットワークをみんなでつくりあげていきましょう。

2021年1月 新聞労連中央執行委員長 吉永 磨美