労連声明:首相官邸の質問妨害に抗議する
安倍晋三首相が8月6日に広島市内で行った記者会見で、質問を続けていた朝日新聞記者が、首相官邸報道室の職員から「だめだよもう。終わり、終わり」と制止され、腕をつかまれる事件が起きました。記者の質問を実力行使で封じ、「報道の自由」や「知る権利」を侵害する許しがたい行為です。首相官邸に強く抗議します。
この日の首相記者会見は、内閣記者会(官邸記者クラブ)が開催を求めてきたにもかかわらず、首相側が会見に応じない状態が続いた末に、毎年恒例の平和記念式典出席に合わせて、49日ぶりに開かれたものでした。記者会から「幹事社以外の質問にも応じるように」と要請されていたにもかかわらず、首相側は事前に準備された幹事社質問にだけ応じて、15分あまりで記者会見を一方的に打ち切ろうとしました。その後、記者が「なぜ50日近く十分に時間を取った正式な会見を開かないんでしょうか」「(今日の会見時間は)十分な時間だとお考えでしょうか」「(国会の)閉会中審査には出られるのでしょうか」と重ねた質問はいずれも国民・市民の疑問を反映したまっとうなものです。首相は「節目節目で会見をさせていただきたい」とその一部にしか答えていないにもかかわらず、官邸の職員が制止に踏み切りました。
記者が様々な角度から質問をぶつけ、見解を問いただすことは、為政者のプロパガンダや一方的な発信を防ぎ、国民・市民の「知る権利」を保障するための大切な営みです。しかし、官邸の記者会見を巡っては近年、事前に通告された質問だけに答えて終了したり、官邸の意に沿わない記者の質問を妨害したりすることが繰り返されてきました。緊急事態宣言を理由に狭めた「1社1人」という人数制限も宣言解除後も続けており、国内外から批判を浴びています。官邸の権限が増大する一方で、説明の場が失われたままという現状は、民主主義の健全な発展を阻害するゆゆしき状況です。
官邸側は今回の事件について、「速やかな移動を促すべく職員が注意喚起を行ったが、腕をつかむことはしていない。今後とも、記者会見の円滑な運営を心掛ける所存」と妨害行為を正当化しています。驚くべきことです。自らの行為を真摯に反省し、オープンで公正な記者会見の運営に見直すよう求めます。また、再質問も行える十分な質疑時間を確保し、フリージャーナリストも含めた質問権を保障した首相記者会見を行うよう改めて求めます。
2020年8月7日
日本新聞労働組合連合(新聞労連)
中央執行委員長 南 彰