第23回新聞労連ジャーナリズム大賞、第13回疋田桂一郎賞
昨年1月1日から12月末日までに紙面化された記事などを対象に、鎌田慧(ルポライター)、柴田鉄治(元朝日新聞社会部長)、北村肇(元週刊金曜日発行人)、青木理(元共同通信記者、ジャーナリスト)の選考委員4氏による審査で選定されました。
< 選 考 結 果 >
大 賞 1件
琉球新報沖縄県知事選取材班による
沖縄県知事選に関する情報のファクトチェック報道
優秀賞 2件
①長崎新聞社「カネミ油症50年」取材チームによる
カネミ油症50年
②宮崎日日新聞社編集局「自分らしく、生きる」取材班による
自分らしく、生きる 宮崎から考えるLGBT
疋田桂一郎賞 1件
毎日新聞新潟支局 南茂芽育(なんも・めい)さん、井口彩(いぐち・あや)さんによる
「過労に倒れた難病の妹」を始めとする新潟県庁での過労死を巡る一連の報道
【選考評】
大賞
○沖縄県知事選に関する情報のファクトチェック報道
琉球新報沖縄県知事選取材班
知事選を通じて広がった情報の真偽を検証する「ファクトチェック」に取り組み、デマや誹謗中傷によって有権者の判断がゆがめられないような環境を作るための紙面を展開した。NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」のプロジェクトに新聞社として初めて参加するとともに、その実践から得られた成果を新聞労連の記者研修会などを通じて他社の記者にも共有し、会社の枠を超えたジャーナリストの連携に寄与したことは特筆すべきことだ。選挙戦の後も、根拠なき情報がSNSなどを通じて瞬時に広がる現代社会の実態を明るみにする企画を続けており、新聞ジャーナリズムに期待される新たな役割を先駆けた功績は大きい。
優秀賞
○カネミ油症50年
長崎新聞社「カネミ油症50年」取材チーム
公害問題を丁寧にフォローし、課題を浮き彫りにした。公害は過去の話ではなく、今なお続き、今後も新たな運動につながる可能性がある。全国的に公害問題が余り取り上げられなくなっている中、改めて光を当てるキャンペーンだった。
○自分らしく、生きる 宮崎から考えるLGBT
宮崎日日新聞社編集局「自分らしく、生きる」取材班
元旦から始まった全社をあげたキャンペーン報道は力作だった。連載を通じて行政を動かしたことは評価に値する。2018年はジェンダー差別に関する政治家の問題発言が相次いだが、これらにも反応し、時宜を得た企画だった。
疋田桂一郎賞
○「過労に倒れた難病の妹」を始めとする新潟県庁での過労死を巡る一連の報道毎日新聞新潟支局 南茂芽育、井口彩
障害を抱える公務員の女性が過労死した事件を掘り起こす新潟支局取材班の中核を担った。長時間勤務は公務員、大企業と広がっているが、障害者の過労死は大きなスキャンダルだ。遺族に寄り添った粘り強い取材が伺える報道だった。
【総評】
今年の応募作は6労組から8件にとどまった。応募作が非常に少なく驚いた。
労連ジャーナリズム大賞は1996年に始まった。新聞社、通信社からなる労働組合として、真のジャーナリズムの実現に向け、権力を監視し、報道の自由を守る記事や連載を顕彰するのが原点だ。新聞協会の新聞協会賞とは一線を画し、平和、憲法、人権、民主主義によって立つ取り組みに注目してきたが、応募作の少なさには、労働組合の新聞研究活動への熱意のなさを感じずにはおれなかった。
そのうえで、8件を応募した6労組には敬意を表したい。
大賞の琉球新報のファクトチェックの取り組みは、意欲的なキャンペーンだった。フェイクニュースが問題になる中で、先鞭をつける取り組みだった。宮崎日日新聞のLGBTキャンペーンは、LGBTを巡る差別的な発言が相次いだ2018年にタイムリーだった。長崎新聞のカネミ油症50年は、丁寧なフォローが光る企画だった。毎日新聞の報道は、障害者の過労死というショッキングな事件を背景まで深く掘り下げていた。
<補足>
新聞労連ジャーナリズム大賞は、当初新聞労連ジャーナリスト大賞として、1996年に制定されましたが、2012年に名称変更しました。全国紙、地方紙を問わず優れた記事を評価し、取材者を激励するために制定した顕彰制度です。今年の応募作品は6組合から8(昨年は15組合21件)作品でした。
「疋田桂一郎賞」は、2006年に新設されました。「人権を守り、報道への信頼増進に寄与する報道」に対して授与されます。新聞労連ジャーナリスト大賞の選考委員だった故・疋田桂一郎氏のご遺族から、「遺志を生かして」として提供された基金に依っています。