特別決議
言論の萎縮を招く不当判決に抗議し、石橋学記者と連帯する
2019年の川崎市議選に立候補した男性が、神奈川新聞労働組合の組合員である石橋学記者に「名誉を棄損された」として損害賠償を求めた民事訴訟で、横浜地裁川崎支部は1月31日、一部で名誉棄損を認める不当判決を下した。新聞労連は、石橋記者に紙面を通じて発言の排外主義性を指摘された男性が提訴したこの訴訟を「記者個人を狙い撃ちするにする嫌がらせ目的のスラップ訴訟」と位置付け、石橋記者を支える活動を続けてきた。川崎市議選に立候補したことがある原告男性の街頭演説の場での石橋記者とのやり取りの一部で名誉棄損を認定した今回の判決は、自由な言論の萎縮につながりかねない。この判決に強く抗議する。
JFEスチール(旧日本鋼管)の所有地に住む在日コリアンが革命の橋頭堡として土地を占領している、などとする男性の主張を、石橋記者は紙面で「悪意に満ちたデマ」と批判し、排外主義的な言動に言論で対抗してきた。判決は、新聞記事の内容を巡る部分については、男性の訴えをすべて退けた。過去のメディアを巡る名誉棄損訴訟で、正当な論評や事実の摘示を適法としてきた判例の積み重ねに則った妥当な判断と言える。差別と闘う新聞報道の意義は、この判決を受けてもまったく揺らぐことはない。
しかし、石橋記者が街頭演説中の男性の発言内容を問題視する目的でやり取りした際の言葉を司法は取り上げ、不当判決の根拠とした。選挙に立候補経験がある人に対して記者が問答するという当たり前の言動の一部を切り取り、悪意を持って被告にするというスラップ訴訟を許せば、取材に当たる記者の不安は高まる。訴訟リスクを恐れた新聞経営者による報道現場への不当な干渉も生みかねない。街頭での意見表明を封じるような今回の判決は、報道だけでなく市民活動を含めた言論の自由に対する幅広い圧力につながることを強く懸念する。石橋記者は控訴の意向を示しており、神奈川新聞社も労働者を守るだけでなく、言論の自由を守る観点から石橋記者を支え続けるべきだ。
在日外国人に対するヘイトスピーチは日本社会に根強く存在し、憎悪の対象になった人が犯罪の被害に遭うヘイトクライムも現実のものになっている。この風潮に警鐘を鳴らし、自由で公正な社会を目指す記者の営みは今後も続く。新聞労連は、新聞労働者の立場で「言うべきことを言い、伝えるべきことを伝える」存在として社会的な使命を果たしていく。石橋記者と今後も連帯し、ヘイトスピーチのない社会の実現に向けて取り組みを一層、強化していく。
以上、決議する。
2023年2月1日 新聞労連 第141回臨時大会