地方自治体で相次ぐ「質問封じ」に抗議する

2024年2月26日
  日本新聞労働組合連合(新聞労連)
中央執行委員長 石川昌義

 自治体首長の記者会見や取材で、記者の質問を不当に制限する動きが相次いでいます。山梨県の長崎幸太郎知事へのインタビュー取材では、同県の広報担当者が報道各社に対して長崎知事を巡る自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件についての質問を行わないよう求め、要請に応じなかった放送局1社への取材を拒否しました。徳島市では内藤佐和子市長の定例記者会見に際し、同市の広報担当者が徳島新聞記者に市長選(3月31日告示、4月7日投開票)に関する質問をしないよう求めていたことが発覚しています。市民の「知る権利」を代行する立場で首長を取材する記者の質問を封じることは、言論の自由を保障した憲法に違反する悪質な行為です。憲法擁護義務を課せられた自治体職員によって言論規制が行われたことに厳重に抗議し、すべての自治体関係者に再発防止を強く求めます。

 山梨県と徳島市の事案に共通するのは、首長の取材に対する消極的な姿勢です。元衆院議員で自民党二階派に所属していた山梨県の長崎知事は、2019年のパーティー券の売り上げのうち1182万円が二階派から還流され、それを政治資金報告書に記載していないことが発覚しています。長崎知事は県の定例記者会見で繰り返し、パーティー券問題の質問を受けましたが、「(在宅起訴された)二階派会計責任者の公判への影響」を理由に回答を避けています。徳島市の内藤市長も23年9月、自身の再選立候補をX(旧ツイッター)で表明しましたが、記者会見での説明を求める記者クラブの2度にわたる要請を拒んでいます。山梨、徳島の事案とも首長による直接の取材拒否の指示は確認されていませんが、選挙で県民・市民の負託を受けた公人としての説明責任に背を向ける首長の姿勢が広報担当者に伝染し、トップの顔色を伺う忖度が自治体にまん延していることを伺わせます。

 石川県の馳浩知事は、地元民放局が制作したドキュメンタリー映画の内容に対する不満を理由に23年3月以降、定例記者会見を開催せず、自身の都合で行う随時開催に切り替えています。この問題で、石川県政記者クラブの有志は定例会見再開を県に申し入れました。山梨県知事の問題では、山梨県政記者クラブが「質問規制は異例で、到底受け入れられない」とする抗議文を知事と当局に提出しています。徳島市長の質問制限の当事者としてメディア選別の問題を報じた徳島新聞の報道の後、毎日新聞や共同通信が一連の問題を報じました。「質問封じ」に抵抗する記者の連帯に敬意を表します。

 19年には菅義偉官房長官(当時)の記者会見での記者の質問を「事実誤認」と指摘する首相官邸が、内閣記者会に対応を申し入れる事案がありました。当時、新聞労連や民放労連などでつくる日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)は官邸前で大規模な抗議集会を開きました。集会でマイクを握った地方紙記者は「首相官邸の質問制限は、必ず地方に伝染する」と警鐘を鳴らしました。その懸念が現実になっている今、知る権利を軽視する権力の暴走に歯止めを掛けるのは、報道現場の連帯と市民の声です。不当な圧力に屈しないことが、メディアに対する市民の信頼につながると確信し、私たちは報道を続けます。

以上