特別決議「言論の自由を守り、広げる」

 警察がメディアを家宅捜索し、押収した資料を基に情報源を逮捕する。首長にとって不都合な質問をすることを理由に、メディアを取材の場から排除する―。これらの事例はいずれも最近、地方を現場に続発した。「情報源の秘匿」という記者の職業倫理の尊重や、「メディア選別をしない」という行政の抑制的態度をかなぐり捨てた振る舞いは、民主主義社会の基盤である言論の自由の侵害である。市民の「知る権利」に応える存在である私たち新聞労働者は、言論の自由を無視した権力の横暴に連帯して抗議の声を上げ続けることを誓う。

 鹿児島県警は2024年4月、組織内部の不祥事の情報漏洩事件に関連して、福岡市を拠点とするネットメディア「ハンター」を家宅捜索した。情報源を巡る強制捜査としては毎日新聞記者と外務省事務官が逮捕された沖縄返還交渉の日米密約報道(1972年)などの前例があるが、今回の事件は押収資料を基に別件の内部告発者である同県警の前生活安全部長が逮捕される前代未聞の事態だ。強制捜査の目的が情報源暴きにあることは明白であり、許されない。

 新聞労連は事態が明るみになった直後、鹿児島県警と家宅捜索を許可した裁判官に対して抗議声明を発表している。しかし、新聞・通信各社や日本新聞協会や日本民間放送連盟の反応は鈍い。「報道による人権侵害」の類型の一つに「過剰な取材」を挙げ、「メディア規制法」と批判を浴びた人権擁護法案が国会で審議された2002年には、新聞協会、民放連とNHK、新聞・通信・放送の320社が取材・報道を不当に規制しないよう求める共同声明を発表している。不正を明るみに出そうとする内部告発者の安心、ひいては市民がメディアに寄せる信頼の拠り所であり、健全な民主主義社会の前提となる「取材源の秘匿」を危うくする暴挙には、労組と経営の立場を超えて一致して抵抗するべきだ。

 行政によるメディア選別や不当な取材拒否は、元国会議員の県知事に自身が関わる裏金問題を質問しようとした民放局のインタビューを拒絶した山梨県の事例や、間近に迫った市長選での去就について定例会見で質問しないよう地元紙のみに要請した徳島市の事例など相次いだ。これらの事案は記者クラブの抗議や当該社の報道で明るみになった。一方で、高圧的な逆質問や論点ずらしで記者会見を空転させ、特定のメディアの質問を事実上、はねつける首長の振る舞いが動画配信サイトで拡散したり、記者を名指しで罵倒する発信がSNSに広がったりした結果、報道現場の心理的安全性が損なわれる深刻な事態も、単組を通じて報告があった。

 市民の知る権利を軽視し、報道の委縮につながる事態には、現場で、職場で、紙面で、機敏に抗議の声を上げよう。鹿児島県警の家宅捜索問題では、新聞労連の声明発表以降、十数社が強制捜査を批判する社説を掲載した。労組の対応が紙面に影響を与えた一例だ。市民が安心して声を上げ、その声を共有することで前進する健全な民主主義社会のために、私たちは日々の報道を通じて言論の自由を守り、その範囲を押し広げていく。

以上、決議する。

2024年7月19日
新聞労連 第144回定期大会