2025年度新聞労連ジャーナリズム大賞、専門紙・スポーツ紙賞、疋田桂一郎賞決定
「平和・民主主義の発展」「言論・報道の自由の確立」「人権擁護」に貢献した記事・企画・キャンペーンを表彰する新聞労連第30回ジャーナリズム大賞、第20回疋田桂一郎賞、第7回専門紙・スポーツ紙賞の受賞作品が決まりました。今回の選考は、昨年紙面化された記事などを対象に、以下の4人による審査で、応募があった18労組26作品から選定しました。(昨年は21労組40作品)
【選考委員】(50音順)
・青木理さん(元共同通信記者、ジャーナリスト)
・臺(だい)宏士(ひろし)さん(元毎日新聞記者・『放送レポート』編集委員)
・浜田敬子さん(前BUSINESS INSIDER JAPAN 統括編集長・元AERA編集長)
・安田菜津紀さん(Dialogue for People フォトジャーナリスト)
<補足>
新聞労連ジャーナリズム大賞は、当初新聞労連ジャーナリスト大賞として、1996年に制定されましたが、2012年に名称変更しました。全国紙、地方紙を問わず優れた記事を評価し、取材者を激励するために制定した顕彰制度です。
「疋田桂一郎賞」は、2006年に新設されました。「人権を守り、報道への信頼増進に寄与する報道」に対して授与されます。新聞労連ジャーナリスト大賞の選考委員だった故・疋田桂一郎氏のご遺族から、「遺志を生かして」として提供された基金に依っています。
専門紙・スポーツ紙賞は、2019年に専門紙賞として創設されましたが、2022年に名称変更をし、選考基準を明確にしました。

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2025年度(第30回)新聞労連ジャーナリズム大賞 各賞選考評
【大賞(2件)】
●(2作品併せて大賞を受賞)
・自民党 西田昌司参院議員の「ひめゆりに『歴史書き換え』」発言の特報
沖縄タイムス編集局 政経部 又吉俊充(またよしとしみつ)、東京報道部 山城響(やましろひびき)、社会部 滝口信之(たきぐちのぶゆき)、ほか編集局全体
・「沖縄戦80年 鉄の暴風 吹かせない」キャンペーン報道
沖縄タイムス編集局 戦後80年取材班 新垣綾子(あらかきあやこ) 阿部岳(あべたかし) 吉田伸(よしだしん) 當銘悠(とうめはるか)、システム部 仲程実亮(なかほどじつりょう)、社会部 新垣玲央(あらかきれお)、南部報道部 新崎哲史(あらさきてつし)
圧倒的な質量の取材に基づいたキャンペーン。特に、戦争トラウマを題材にした連載「悲(なちか)しや沖縄(うちなー)」は、住民の心の傷に焦点を当て、戦後80年たっても残る沖縄戦の深い爪痕を描き切った。平和の礎に刻銘された全ての氏名を紙面に掲載したことに「名前の大事さを投げかける大事な取り組み」との声が上がった。選考会では西田参院議員の「ひめゆり発言」をいち早く報じた報道と併せ、大賞にふさわしいとの評価だった。
● 在日米軍核訓練問題
一般社団法人共同通信社デジタルコンテンツ部新里環(しんざとたまき)
米軍岩国基地の航空部隊が1970年代に沖縄で模擬弾を使った核兵器投下訓練を繰り返していたことが判明したとのスクープ。米軍の膨大な資料を読み解き、配信記事は多数の加盟紙が1 面トップなどで掲載した。日本返還後にも沖縄での訓練は続き、模擬弾を事実上隠ぺいしていた。高市政権下で非核三原則が揺らぐ中、貴重な特ダネだ。
【優秀賞(4件)】
● 戦争の記録を巡る一連の報道
秋田魁新報 戦後80年取材班 代表 岡田郁美(おかだいくみ)
秋田県が戦没者名簿の公開を取りやめた問題や終戦直前に秋田市であった「土崎空襲」の死者数が根拠不明となっている問題など、戦争を巡る記録にこだわりぬいた報道。選考委員か らは「いい問題提起だ」との評があった。記録は亡くなった多数の方々の「生きた証」だ。報道の結果、戦争遺跡の実態調査に秋田県が乗り出すなど丹念な取材が現実を動かす過程も描かれており、記者たちの執念が感じられた。
● 原爆犠牲者の遺骨返還に向けたDNA型鑑定に関する報道
中国新聞ヒロシマ平和メディアセンター 山本祐司(やまもとゆうじ)
平和記念公園にある原爆供養塔の遺骨を巡り、広島市がDNA型鑑定を初めて実施し身元が判明したとの一連のスクープ。継続して粘り強く原爆犠牲者遺族と寄り添ってきた記者による取材。戦後80年がたち、戦争や原爆の記憶が薄れつつある中、全国の空襲などの犠牲者の身元判明にもつながり得る動きで、記事では空襲犠牲者遺族の期待の声も盛り込んだ。
● 「私たちの平和論」など戦後80年に関する一連の報道
北海道新聞「私たちの平和論」取材班
選考会ではアイヌ民族の兵士や千島アイヌなどアイヌ民族と戦争を書いた「戦禍とアイヌ民族 記者がたどる戦争特別編」への評価が高かった。広く読まれてほしい内容だ。また、戦時中の報道や敗戦直後に樺太にとどまり、シベリアに抑留された記者たちの苦難、昭和天皇が亡くなった際の報道について検証した連載「戦争の正体を追う 北海道新聞はどう報じたか」も読みごたえがあった。
● キャンペーン報道「問う 時速194キロ交通死亡事故」
大分合同新聞報道部 羽山草平(はやまそうへい)
2021年に大分市で時速194キロの車が引き起こした交通死亡事故をきっかけに「危険運転致死罪」の在り方をキャンペーン報道で問い続けた。遺族の悲痛な思いと刑罰としてどうあるべきかを丹念に取材し法の不備をどう解消していくかを追求した。法務省は法改正に向け法制審議会で議論を進めており、今後の報道の展開も期待される。
【特別賞(2件)】
● 連載企画「ともにあたらしく ジェンダー 地域から」
信濃毎日新聞連載企画「ともにあたらしく ジェンダー 地域から」取材班
(代表・山越悌治⦅やまこしていじ⦆長野本社報道部次長)
ジェンダー不平等が地域の閉塞感となり、女性が地元から転出する状況は全国各地で生まれている。ジェンダー平等を長野県でどう実現していくべきかを詳細なルポやデータで訴え、半年間にわたる大型連載を完成させた。取材班には男性も加わり、記事では社内のジェンダー不平等の現状も吐露した。社を挙げてのキャンペーンに地元紙としての強い決意が感じられた。
● 「戦後80年えひめ」一連の報道
愛媛新聞取材班
連載「戦争、何を伝える ~あの日の授業から」では、県内の小学校が愛媛新聞が開発した小中学校向けアプリ「愛媛新聞forスタディ」を活用し、県内全空襲マップなどのコンテンツを授業で使った様子を描いた。選考会では戦争体験の継承に新聞社が主体的に関与した取り組みへの評価が高かった。その他、兵士だった曽祖父の軌跡を追った大学生の調査に同行した連載もあった。
【疋田桂一郎賞(2件)】
● 人口格差 振興策を問う
沖縄タイムス「人口格差」取材班
人口が増え続けてきた沖縄県だが、離島自治体においては、職員の深刻な定員割れやインフラの老朽化、高い空き家率など「自治体消滅」の危機が迫る。4~9年目の若い記者たちが島を歩き、掘り出してきた課題を1年かけて訴え続けた。住民目線を大事にした連載で、これをきっかけに県が応援職員を派遣する動きが出るなど、行政も動かした労作だ。
● 石垣市議会の「君が代調査決議」に関する報道
琉球新報八重山支局照屋大哲(てるやだいてつ)
沖縄県石垣市議会で2025年9月、児童・生徒を対象にした「君が代」をうたっているか調査するよう求める決議が可決された。教育委員会は当初、アンケート実施する意向を示したが、市民団体などの反対を受け、最終的に調査を実施しないと決めた。教職員が「恐ろしい時代になった」と憂える中、「子どもたちの内心の自由を侵害する」などと真正面から論陣を張り、教委を動かした意義ある報道だ。
【選考委員会総評】
応募総数は26作品、18労組から寄せられた。前回を14点下回ったものの、戦後80年の節目で、戦争に関する重厚な企画の応募が多かった。戦後80年関連の応募作品はいずれも甲乙つけがたく、選考会では「戦後80年関連については、特別に全ての応募作に授賞すべきではないか」との声も上がったほどだ。受賞の有無にかかわらず、それぞれの新聞社や通信社が役割を果たした一年だったと考える。高齢化で戦争体験者がいなくなる時代が遠くないという問題意識は各作品とも明確で、経験者の声を丹念にすくい上げたり、記録や戦争遺産を取り上げたりする取り組みが目立った。また、戦後80年以外では、特に地元紙から地域で起こっている問題を掘り下げ、記事を通じて世論や行政を動かした意欲作が目立った。選考会では毎日新聞の「神への挑戦 人知の向かう先には」への評価が高かった。科学記者の力を見せつける連載で「今後も続けてほしい」との声が上がった。
今年は戦後81年。戦争報道は今後も多角的に進めていく必要がある。一方で例えば2025年だけでも、排外主義やクマ、メガソーラー、コメなど全国・地方でさまざまな課題が浮き彫りになった。また、今年の1月早々に米国がベネズエラを攻撃する事態が起こるなど、国際情勢も深刻さを増している。来年のジャーナリズム大賞では、こうした国内外で起こっている問題を取り上げた幅広い分野の作品の応募を楽しみにしている。また、皆さんの素晴らしい記事を特に若い世代にどう届けるかも大きなテーマだ。表現方法や伝え方の工夫をこらした作品の応募にも期待したい。
専門紙賞・スポーツ紙賞の受賞はなく、応募も1件にとどまった。新聞労連では2賞の審査の在り方について議論を進めており、選考体制を整えた上で今夏に再度募集する方向だ。
受賞作以外の応募作品についての寸評は以下の通り。(作品名、執筆者名は応募時の記載による)
▽戦後80年関連応募作品
●平和のかたち とちぎ戦後80年と宇都宮空襲特別紙面(下野新聞)
「語り継ぐ意義」をメインテーマに据え、全社を挙げて取り組んだ2年にわたる一連の報道。特別紙面を組んだ宇都宮空襲をはじめ、広島、沖縄、旧満州国など栃木県民に関わる幅広いテーマを取り上げた。若い記者も多数、取材執筆に関わっており、社内における継承にも大きく寄与したのではないだろうか。
●戦後80年企画「戦時下ですから」(毎日新聞)
日本人による「加害の事実」をテーマに展開。選考会でも加害に目を向けたことに評価が高かった。終戦直後に南樺太で起こった朝鮮人の虐殺、特別高等警察による市民監視など、排外主義や監視社会が進み、戦争が身近になってしまった今こそ知るべき過去の日本の姿が浮かんでくる。
●戦後80年連載「向き合う負の歴史」(共同通信)
西田昌司参院議員による「ひめゆり発言」など、歴史否定の言説は後を絶たない。取材班には全国の記者が集い、慰安婦問題や沖縄での強制集団死、731部隊、朝鮮や中国の人々の強制労働など、歴史否定の舞台となった現場に足を運んだ労作。現代から80年前を照射した労作に、選考会での評価も高かった。
●被爆80年に向けた企画「ともに歩む 長崎被災協のこれから」と一連の報道(長崎新聞)
長崎を「最後の被爆地」であり続けさせるために、反核運動を繰り広げてきた被爆者団体「長崎被災協」。被団協の中心組織でノーベル平和賞を受賞した。だが被爆者の高齢化で存続の岐路にあり、その軌跡を追った2年間の報道だ。被爆者の証言を動画や絵本に残す運動には若者や外国籍の人も加わる。長崎の地元紙としての貴重な報道で評価が高かった。
●「沖縄戦80年“新しい戦前”にしない」キャンペーン報道(琉球新報)
沖縄の軍事要塞化が進む中、「戦争を繰り返させない」との強い決意で繰り広げられたキャンペーン報道。牛島満司令官の「辞世の句」が陸自のホームページに掲載されている問題や、陸自が幹部候補生の学習資料に第32軍は「偉大な貢献」と記していた問題のスクープとその後の追及は見事だった。選考会では戦争の加害に焦点を当てた報道に高い評価があった。
▽その他分野の応募作品
●連載「富岡に暮らす」を中心とした一連の報道(河北新報)
東京電力福島第一原発事故に伴う避難指示が解除されたばかりの福島県富岡町夜の森地区に住みながら2023年4月以降、現状と課題を連載などで書き続けた。記者は臨時支局の開設を会社に志願。消防団に加入するなど、いち住民としての立場から取材を続けた。この地域の復興がどう進むかは、全国が注目すべきテーマだ。今後も密着取材を続けてほしい。
●神への挑戦 人知の向かう先には(毎日新聞)
1970年代、2000年代にも同じタイトルで連載、現代の最新科学研究の光と影を追う毎日新聞の看板企画。2023年以降、年1回ペースでAIと生命科学、気候変動を取り上げた。普段の生活で触れられない最新科学の世界を冷静に分かりやすく書いており、「科学技術『暴走』にルールを」との記者の訴えには説得力があった。選考会では「面白かった。ぜひ今後も続けてほしい」との声が上がった。
●懲らしめから更生へ~拘禁刑が問いかける刑事司法の未来~(東京報道新聞)
東京報道新聞は、2022年に里山氏が立ち上げた新興のネットメディア。東京報道新聞は刑務所を巡る問題にかねて関心が高く、応募作品では25年に拘禁刑が新設されたことを受け、沖縄や大分など各地の刑務所を訪れレポートした。一般紙では扱うことが多くはない分野であり、今後も取材を続け、隠された問題点や課題をぜひ浮き彫りにしてもらいたい。
●【私が巻き込まれた陰謀論】カウンセリングオフィスで「公認心理師」から聞かされた“怖い話”(ハフポスト日本版)
「幼少期のトラウマ克服」を目的に訪れたカウンセリングで「能登地震は人工的に起こされた」などの陰謀論を延々と聞かされる。にわかに信じがたいが本当の話を取材したネット連載。パワハラなどにより精神的に傷つく人が後を絶たず、カウンセリングの重要性が高まっている中で、国家資格である公認心理師からの被害に関する相談先があいまいな事実も分かった。ぜひさらなる問題点を浮き彫りにしてもらいたい。●福井発 カナリアの警告(福井新聞)
「香害」や「化学物質過敏症」について追った26回の連載。柔軟剤や合成洗剤などが原因だと訴える声が多く、行政も庁内のハンドソープや洗剤を無香料に変更するなどの対策を取るがメカニズムが明確でなく、規制に至っていない。被害者の声を掬い取った連載は大事な問題提起。誰もが暮らしやすい社会に向け取材を続けてほしい。
●兵庫県知事選 あの熱狂の中で(神戸新聞)
2024年の兵庫県知事選は誤情報とデマが有権者を惑わせ、記者たちも攻撃を受け、メディアの選挙報道を考え直すきっかけになった。応募作品は新聞不買の動きなど自らの報道への反省も交えながら今後の改善につなげようという価値ある報道で、他紙にも参考になる内容だ。ただ、知事選をかき回した「インフルエンサー」である立花孝志氏に触れる場面が少なかったことに選考会では「惜しい」との声もあった。
●あの日から 尼崎JR脱線事故20年(神戸新聞)
地元紙として20年前のあの凄惨な事故をどう語り継ぐか。地元に愛される新聞社の蓄積を生かし、歴代の担当記者と交流を続けてきた遺族の一人を取り上げ、1年以上かけて深く丁寧に取材した連載だ。「忘れられるのが一番さみしい」と訴える遺族の思いに寄り添い、優しい筆致で読ませる内容だ。
●古謝景春前南城市長のセクハラ問題を追及する一連の報道(琉球新報)
2023年12月に琉球新報が特報した古謝前市長のセクハラ問題は、琉球新報が中心となった2年にわたる粘り強い追及の結果、25年12月、失職後の市長選に前市長が出馬しなかったことで大きな節目を迎えた。選考会では「執念とも言える。南城市には前市長に近い人も多い中、取材先との深い信頼関係があったから成り立った報道だ」と高い評価があった。被害者救済、ハラスメントのない南城市をつくるため、引き続き奮闘を期待したい。
●ジャングリア沖縄の開業に伴う地域への観光公害を取り上げた一連の報道(沖縄タイムス)
地元紙ならではの問題解決型の報道だ。全国的な話題となった「ジャングリア沖縄」の開業に伴う、賃貸物件の家賃高騰により新入大学生が部屋を借りられなくなる問題や渋滞問題による救急搬送への不安が生じた問題について丹念に追い、行政や運営会社による改善に結びつけた。いずれも地元に密着している記者だからこそ気付いた課題であり、新聞の力を感じた。
▽業界紙賞応募作品
●八潮市道路陥没事故に関する一連の記事(日刊建設工業新聞)
2025年1月に埼玉県八潮市で起こり、トラック運転手が亡くなった道路陥没事故は、1年たっても仮復旧の状態が続く。応募作品では、陥没防止対策や復旧工法など、建設産業専門紙の読者にとって参考になる記事が並ぶ。全国各地でインフラが老朽化する中で、建設業者の果たす役割は非常に大きい。一般市民が安全に暮らせるように、今後もきめ細かい報道をお願いしたい。
これまでの受賞作品一覧 https://drive.google.com/drive/folders/1ZW0BI2L1UJcL3OXHbgwju98-I2FyhRcs
これまでの受賞歴・数一覧
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