質問を理由にした誹謗中傷は「市民の知る権利」を損ねる
2025 年 7 月、兵庫県知事の定例記者会見で質問した時事通信の記者に対し、同社にクレーム電話が相次ぐ事態が生じ、交流サイト(SNS)や YouTube においては記者の実名を挙げた上で誹謗中傷の投稿が繰り返された。これまでも定例会見など斎藤元彦知事への取材を巡っては、他社の記者も SNS 上で中傷の対象となっている。記者は市民の知る権利に奉仕するために記者会見に出席し、知事と質疑応答を重ねることで県政の抱える問題点を明らかにしようと取り組んでいる。質問したことを理由に多数の中傷を受けることが常態化すれば、心身への圧迫により取材活動の萎縮を招き、ひいては知る権利が損なわれる。
斎藤知事はこれまでの記者会見で「報道の自由は尊重されなければならない」と述べているが、質問をした記者が誹謗中傷にさらされる現状をどう考えるのか、報道の自由を尊重する観点で踏み込んだ見解を示すべきだ。
時事通信記者は 7 月 22 日の定例会見で、斎藤知事らを内部告発した元県民局長の遺族がネット上で攻撃を受けていることについて「知事は今こそ、ネットで嫌がらせを止めろと言うべきではないか」と質問。その後、クレーム電話などが相次ぎ、翌日、県政担当から外れた。29 日の会見では記者が質問を理由に炎上することによって「記者が委縮して、職員や議員が委縮していく」と指摘。「いつも震源地にいるのは知事だ。知事しかこの状況を変えられない。だが、知事はこの状況を問題に思っているようにも、変えようと思っているようにも見えない」と訴えた。誹謗中傷を経験した当事者による重要な問題提起だが、斎藤知事は「質疑の方を、できるだけ自分のできることをしている。対応していることはご理解いただきたい」と答えるにとどまった。しかし、記者会見が真に県民、市民の知る権利を保証できる場とするために、斎藤知事は今こそ、事態を改善するための言葉を発する必要がある。
時事通信社は神戸新聞の取材に対し「配置換えは異動の一環。理由は差し控える」と回答しているが、再発防止の観点からも「記者を守る」という姿勢を明確に示さなければならない。日本新聞協会は6月5日、「正当な取材活動が脅かされれば、民主主義を揺るがすことになりかねない」として、記者等への不当な攻撃を許さず、根拠のない誹謗中傷などの人権侵害行為に対して厳正に対処するとの声明を公表している。時事通信社の迅速な対応を求める。
報道に携わる者として、報道内容に対する読者や市民からの指摘や批判に真摯に向き合うことは当然だ。しかし、誹謗中傷は批判とは異なり、記者の尊厳を傷つける重大な人権侵害だ。新聞労連として、改めて記者を守るとの姿勢を明確にするとともに、報道の自由を守るために力を尽くしていく。
2025年8月5日
日本新聞労働組合連合(新聞労連)
中央執行委員長 西村誠