「過労死を繰り返さないために」
2022年9月6日
日本新聞労働組合連合(新聞労連)
中央執行委員長 石川昌義
NHK首都圏放送センター(現首都圏局)に所属し、東京都庁キャップを務めていた40歳代の男性記者(管理職)が2019年10月に亡くなり、渋谷労働基準監督署が22年8月、長時間労働を理由に労災認定していたことが明らかになりました。報道の世界で働く同志が志半ばに過労で倒れたことは、残念でなりません。NHKでは同じ都庁記者クラブで13年に女性記者が亡くなり、同様に労災認定されています。労働環境の改善や職場風土の見直しが不十分だったと言わざるを得ません。NHKは猛省し、現場の実態に即した再発防止策を早急に打ち出すべきです。
NHKの発表によると、男性記者の勤務記録は、亡くなる前の5か月間の時間外勤務が月平均92時間に上っていました。これは、厚生労働省が「過労死ライン」としている月平均80時間を上回ります。17年12月、NHKは「長時間労働に頼らない組織風土をつくります」などとする「働き方改革宣言」を公表しています。男性記者は産業医面談の勧奨対象になっていましたが、面談を受けていませんでした。現場任せの不十分な労務管理は、安全配慮義務を果たしておらず、「仏を作って魂入れず」との批判は免れません。
新聞業界もまた、過去に多くの過労死事案がありました。新聞労連には、遺族とともに労災認定を求める闘いを進めてきた歴史があります。しかし、「読者のため、いい紙面のためには長時間労働もやむを得ない」という認識が依然として職場を覆っています。15年の電通新入社員の過労自死や、前述したNHK女性記者の過労死の後、19年施行の改正労働基準法で時間外労働の罰則付き上限規制が導入されました。一方で「定額働かせ放題」の批判がある裁量労働制を採り入れる報道機関は増加傾向にあります。長時間労働に歯止めを掛け、過労死の防波堤となる労働組合の役割は一層、重くなっています。
メディア業界は経営悪化による人員削減や、デジタル化による新たな業務で労働者の負荷は高まっています。ハラスメントがはびこる上意下達の職場風土や旧態依然の長時間労働に絶望した離職も相次いでいます。業務量を削減せずに残業時間を減らそうとするだけでは、本当の働きやすさは実現しません。経営陣だけでなく、現場を担うベテラン・中堅層のマインドチェンジも必要です。NHK男性記者の遺族は「職員の命を危険にさらすほどの勤務を認めてきた組織の風土から改めて見直し、今後は職員やその家族の人生や幸せを軽んじることのない団体に生まれ変わることを切に願っています」とのコメントを発表しました。現場の労働者の「幸せ」があってこそ、健全なジャーナリズムは成り立ちます。過労死を繰り返す体質を温存したままでは、メディアへの市民の不信は強まるばかりです。長時間労働を是とする悪しき風土の一掃に労使が真剣に取り組む必要があります。
以上