東京高裁の不当判決に抗議する

~中日新聞社 「錬成費」 廃止事件~

2024年3月26日
東京新聞労働組合 執行委員長 宇佐見昭彦
弁護団弁護士 今泉義竜/本間耕三
日本新聞労働組合連合(新聞労連)中央執行委員長 石川昌義

1 中日新聞社は2020年3月、経費節減などを理由に、60年以上にわたり労働者に毎年支払ってきた手当である錬成費(年3000円)を一方的に廃止した。本件訴訟は、東京新聞労働組合の組合員を代表して宇佐見委員長が、この錬成費廃止は労働契約法9条、10条に違反するとして従前通りの支払いを求めて提訴し、東京地裁の請求棄却(昨年8月28日)を受けて控訴したものである。

2 2024年3月13日、東京高等裁判所(第23民事部・舘内比佐志裁判長)は▼錬成費が労使慣行として成立していたとは認められない▼黙示の労働契約として成立していたとも認められない — とする一審判決の判断の枠組みを踏襲し、原告側の控訴を棄却した。
 すなわち、東京高裁は、法的効力のある労使慣行の成立には(1)同種の行為または事実が一定の範囲において長期間反復継続していたこと(2)労使双方が明示的に排除・排斥していないこと(3)労使双方の規範意識(守るべきルールとの意識)によって支えられていること— が必要とした上で、錬成費については「任意的恩恵的給付だ」「毎年支払うと決まっていたものではない」などという中日新聞社の後付けの主張を無批判に受け入れ、(3)を満たしていないとの理由で労使慣行の成立を認めなかった。一審と同様に、労働契約法が制定される以前からの古い判断の枠組みだ。
 さらに東京高裁は、規範意識について「当事者自身の主観的認識の内容も十分に検討するのが合理的かつ相当である」とした。しかし、主観的認識を重視した厳格な認定にとらわれた結果、社側の「規範意識はなかった」という恣意的な主張に引っ張られており、社が規範意識を持っていたことを示す多数の客観的事実(後述)を正当に評価していない。
 また、労使慣行ではなく、黙示の労働契約(黙示の合意)として成立していたか否かについて、東京高裁は、原告と社の間で「錬成費支給に係る明示的な合意と同視できる程度のやり取りが取り交わされたことを認めるに足りる証拠もない」などとした。だが、そのような「やり取り」があるなら、それはすでに「黙示」の合意ではなくなるわけで、高裁判決は論旨が矛盾・破綻している。

3 実際には、中日新聞社は錬成費を「毎年支払うべきもの」と考えていた。だからこそ、社の歴史上、初めて(現在に至るまで唯一)の単年度赤字となった リーマンショック時(2008年度)でさえ錬成費を滞りなく全社員に支払った。2010年以降、社は錬成費を賃金明細の「諸手当2」に記載し、給与所得として課税対象に入れた。並存する中日労組(新聞労連非加盟)も「賃金と制度のしおり」に他の手当と並列して長年明記していた。錬成費が廃止された際は、社長と中日労組委員長が合意文書(労働協約)に調印している。これらは、社が錬成費を「毎年支払うべきもの」と認識していた(規範意識があった)ことを示す客観的事実だ。錬成費が労働条件であり、賃金の一部だった証拠である。
 労働契約法の制定を踏まえ、労使慣行の成立には(1)(2)で十分と考えられるが、仮に(3)が必要だとしても、規範意識があったのだから、錬成費は労使慣行として成立していたことが明白だ。

4 一審に続く東京高裁の不当判決が通るなら、経営者は長年の労使慣行による手当を違法に廃止しても「規範意識はなかった」と言えば免罪されることになりかねない。労働者にとっては、入社した時にすでに存在したような昔からの労使慣行による手当や制度も、簡単に奪われることにつながる。これでは労働者の権利は守られない。私たちは、強きになびき、労働者の権利を軽んじたこのような不当判決に強く抗議するとともに、公正な司法、真っ当な社会の実現を求め、全力を挙げる。  

以上