【声明】最高裁の上告棄却に屈しない~中日新聞社 「錬成費」 廃止事件~
2024年9月20日
東京新聞労働組合 執行委員長 宇佐見昭彦
弁護団弁護士 今泉義竜/本間耕三
日本新聞労働組合連合(新聞労連)中央執行委員長 西村誠
1 中日新聞社は2020年3月、経費節減などを理由に、60年以上にわたり労働者に毎年支払ってきた手当である錬成費(年3000円)を一方的に廃止した。本件訴訟は、このような社側の行為は労働契約法9条および10条違反であるとして、東京新聞労働組合の組合員を代表する形で宇佐見委員長が従前通りの支払いを求めて提訴し、東京地裁の請求棄却(昨年8月28日)、東京高裁の控訴棄却(今年3月13日)を受けて上告したものである。
2 最高裁判所(第三小法廷)は2024年9月18日付で、上告を棄却する(上告審としての受理もしない)旨、決定した。その決定理由は、組合側原告の上告を「事実誤認または単なる法令違反を主張するもの」であるとし、憲法違反や判例違反などの指摘が含まれないから上告を受け付けないとする形式的なものであった。
事件の本質や真相を見ようとしない最高裁の「門前払い」的対応により、▼錬成費が労使慣行として成立していたとは認められない▼黙示の労働契約として成立していたとも認められない — とする不当な一審判決を大枠で踏襲した二審判決が、このような形で確定したことに、強く抗議する。
侵害された労働者個人の権利を法的に救済する最後の砦であるべき裁判所が、強者になびき、企業の横暴を看過・免罪するという「司法の機能不全」を端的に示す一例である。
3 二審判決は、一審と同様、社側が錬成費支給について「規範意識」(守るべきルールとの意識)を持っていなかったと判断し、労使慣行の成立を認めず、労使慣行に支えられた労働条件であることを否定した。「任意的恩恵的給付だ」「毎年支払うとは決まっていなかった」などという社側の後付けの主張を鵜呑みにした不当な判断だ。
現実には、社は錬成費を「毎年支払うべきもの」と考えていた。社の歴史上唯一の赤字決算となった2008年度(リーマンショック時)でさえ滞りなく全社員に支給したこと▼2010年以降は賃金明細の「諸手当2」に記載し、給与所得(課税対象)として明確化したこと▼並存する中日労組(新聞労連非加盟)も「賃金と制度のしおり」に他の手当と並列して長年明記していたこと▼錬成費廃止で合意した旨の社と中日労組の調印文書(労働協約)が存在すること — など多数の客観的事実が、社の規範意識の存在を裏付けている。
だが、司法はこれらの証拠を無視し、または不当に軽視し、社側の恣意的な供述に寄り添って、誤った判決を繰り返した。そして最高裁は、下級審の誤りを正す機会を自ら放棄した。
4 労使間の問題は労使交渉で解決するのが最も望ましいが、今回のように社が交渉を無視して手当廃止を強行した事件では、労働者は法的機関に救済を求め、法の力で正すほかない。裁判所がその役割を果たさないという現実を思い知らされ、強い怒りを覚えるとともに、公正な司法、真っ当な社会の実現が急務であると痛感せざるをえない。
新聞業界でも、経費削減の暴走が働く者の権利と生活を脅かしている。本件訴訟で労使交渉を無視した一方的な不利益変更が免罪されたことは、他社や他業界に及ぼす悪弊も大きく、影響が懸念される。しかし、私たちは不当な司法判断に屈することなく、これからも経営者と真正面から対峙し、無法な施策に対してはあらゆる公的機関も活用して、働く者の権利と尊厳を守るため、果敢に取り組んでいく決意である。