「専守防衛」を骨抜きにするな―敵基地攻撃能力の保有に反対する―

  2022年12月9日
日本新聞労働組合連合 (新聞労連)
中央執行委員長 石川昌義

 自民、公明両党は12月2日の実務者協議で、相手国のミサイル発射拠点などを攻撃する敵基地攻撃能力の保有を認めることに合意しました。政府は安全保障関連3文書の改定の際に、安全保障政策の大転換となるこの合意を国家安全保障戦略に明記し、年内にも閣議決定しようとしています。国際法違反の「先制攻撃」になりかねない危険性をはらむだけでなく、「武力による威嚇」を禁じた憲法9条に基づき、長年にわたって国是としてきた「専守防衛」を骨抜きにする政策転換に断固、反対します。

 自公両党は、敵基地攻撃に踏み切るタイミングや攻撃対象を明示していません。歴代政権は敵基地攻撃について「他に手段がないと認められる場合に限り、自衛の範囲に含まれ、可能だ」とする見解を取る一方、その能力の保有は政策判断として見送ってきました。抑制的な従来の姿勢を一変させ、北朝鮮の相次ぐミサイル発射や中国・台湾の軍事的緊張で強まる国民の不安に便乗するような拙速な対応は許されません。国会審議も不十分で、国民への説明は尽くされていません。

 軍事力に軍事力で対抗し、相手の攻撃を思いとどまらせる「抑止力」の発想は、軍拡競争を招きます。ウクライナへの軍事侵攻に際して核兵器使用を示唆したロシアのプーチン大統領と同根の発想ではないでしょうか。周辺国との摩擦を強め、市民を緊張と危険にさらす「安全保障のジレンマ」に陥ることを強く懸念します。

 自公両党は敵基地攻撃能力の名称を「反撃能力」とすることも決めました。政策の危うさをあいまいにさせる言い換えは、過去の為政者が維持してきた武力行使の歯止めを外すことへの後ろめたさの表れです。撤退を「転進」、全滅を「玉砕」と言い換えた戦時中の大本営発表の過ちを繰り返しているかのようです。報道各社は、「反撃能力」という言葉のまやかしを見逃してはなりません。安易な言葉遣いで本質を隠すべきではありません。

 自公政権は長く「違憲」とされてきた集団的自衛権の行使を容認し、2015年に安全保障関連法を強行採決で可決しました。新聞労連は同法を批判し、反対の姿勢を鮮明にしています。今回の敵基地攻撃能力の保有容認も同様に、戦争の大きな犠牲から生まれた平和憲法を空文化させかねない政策転換です。1950年に発足した新聞労連の原点は、「部数拡張につながる」と戦意高揚に邁進し、大本営発表をそのまま伝えた戦前、戦中の報道への痛切な反省です。「もう二度と戦争のためのペンを執らない。カメラを持たない。輪転機を回さない」と誓った新聞労働者の精神を受け継ぐ私たちは、この政策転換を認めません。