第138回定期大会:デジタル関連法案に関する特別決議

 政府は、流通するデータの多様化・大容量化が進展し、データの活用が不可欠であるなどとして、デジタル改革関連6法案を今年2月に閣議決定し、国会に提出しました。9月に予定しているデジタル庁設置などのための関連6法案が上程され、うち5法案が30時間にも満たない拙速審議で、28項目の付帯決議がついて、4月6日衆議院本会議にて可決されました。6法案の内容は極めて広範で、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案」では、個人情報関係3法(個人情報保護法、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律)を1本の法律に統合し、地方公共団体の個人情報保護制度についても全国的な共通ルールを設定して所管が分かれていたものを個人情報保護委員会に一元化していく流れです。
 この法律は昨年10月から政府のデータ戦略タスクフォースなどで法案化作業が進められ、12月に法案の第一次取りまとめが行われました。かなりのスピード審議だった挙句、公開された議事の中身は、簡略な議事概要のみ。半年後の今も議事録は公開されず、市民の「知る権利」に十分に応え、説明責任を果たしているとは言えません。5法案は約60本の法律を束ねていますが、広く意見を募るパブリックコメント(意見公募)も実施せず、閣議決定されました。従来の重要法案に比べて民主的な手続きが不足しているのは明白です。
 個人情報が政府に一元化し集中するのであれば、権力による恣意的な利用、暴走を許さない仕組みを保障しなければなりません。同法案はそれらの監視制度が不十分で、透明性を高め、厳格な運用を担保する制度整備がなされていません。情報システムが巨大化し、作業の業務委託が重なれば、漏洩の危険性も増します。しかし、権力濫用や漏洩を食い止める有効な制度や機関が見当たらないことも危惧します。
 また、同法案の構造自体が「保護」より「利用」を優先する成り立ちのため、匿名(仮名)化による個人情報保護の適用外扱いや本人同意なしの第三者提供、目的外使用が容易になる可能性があります。本人同意原則の明確化、本人情報追跡の徹底が必須です。
 2013年に「特定秘密保護法」が制定された際、衆参両院に設けられた「情報監視審査会」を活用するなどして、個人情報の不正利用監視を徹底し、権力濫用へのブレーキシステムの構築を求めます。
 また、取材活動に関わる情報については、政府による収集・管理の適用外とすることが必要です。表現や報道の自由、取材源の秘匿の観点から、権力側の不適切な収集・管理は許されません。金融機関の口座、住所、勤務先、学歴などの個人情報をマイナンバーで一元管理することで、特定のキーワードによるリストアップが可能になります。権力にとって不都合な取材活動の監視に繋がる懸念があります。スーパーシティなど、個人情報の扱いが規制緩和された特区においては、本人同意なく取材情報を吸い上げられる可能性もあります。自己情報コントロール(本人情報開示)が不徹底のままでは、取材源の秘匿が確保できなくなる恐れがあります。
 数多くの付帯決議が付けられたのは、審議が不十分だったことの表れです。社会の下地として、情報公開の制度運用では改竄、隠蔽、廃棄などの問題があり、市民の知る権利に応え、行政がアカウンタビリティー(説明責任)を果たしていない中で、個人情報の利用を促進させる法案を短期間で議論を完結させる事態は避けるべきです。法案設立までの審議内容が明らかになっていない中、国会の議論も不十分な状態で不備を抱えた法案を成立させると、国民の社会生活や表現や報道の自由も危ぶまれます。議論の中身を明らかにしながら、民主的な手続きに乗っ取った、時間をかけて開かれた慎重な審議を求めるため、今国会での拙速な成立に反対します。

2021年4月21日 新聞労連138回定期大会