取材の自由と「知る権利」を守るための共同アピール ~北海道新聞記者の逮捕・不起訴処分を受けて~

2022年4月13日
日本新聞労働組合連合(新聞労連)
北海道新聞労働組合
メディア総合研究所
日本出版労働組合連合会(出版労連)
日本ジャーナリスト会議(J C J)
日本マスコミ文化情報労組会議(M I C)

 旭川医科大学で昨年6月22日、取材中の北海道新聞社旭川報道部の記者が建造物侵入容疑で現行犯逮捕(常人逮捕)された問題で、旭川区検は3月31日、逮捕された記者と取材を指揮していたキャップについて、いずれも不起訴処分としました。日本新聞労働組合連合、北海道新聞労働組合、メディア総合研究所、日本出版労働組合連合会、日本ジャーナリスト会議(J C J)、日本マスコミ文化情報労組会議(M I C)は、一連の経過と処分を受けて共同でアピールします。

 大学職員が取材記者を常人逮捕した行為、並びに警察が記者をすぐに釈放せず48時間にわたり拘束した行為は、いずれも過剰な対応だったと考えます。建造物侵入罪を理由に憲法21条が保障する報道の自由を侵害する行為であり、ひいては広く市民の基本的人権を脅かすことにつながりかねないと危惧します。

 逮捕された記者は、学長選考会議が開かれている公共の教育施設である大学構内に、取材目的で立ち入りました。キャップは、その選考会議を取材させるために、記者に構内立ち入りを命じました。この日の会議は、ハラスメントなど問題を引き起こした大学学長の解任の是非が議題でした。公共建造物である大学構内の建物での会議取材は、新聞記者として当然の業務です。メディアの側も大学による入構禁止の是非を争うこともなく、記者を立ち入らせたことは反省すべき点ですが、大学側による取材記者の常人逮捕は過剰な反応です。大学側は目立った実害が出ていない中で身柄拘束をして警察を呼びましたが、その行為の必要性や経緯について、市民に向けて十分に説明していません。憲法23条に定められた学問の自由を制度的に保障する「大学の自治」の原則から解明が必要です。

 警察の対応も適切ではありませんでした。大学職員から引き渡された後、記者は身分を明かしました。記者が建物に立ち入った理由が取材であったことはその時点で分かったはずであり、48時間にわたり身柄を拘束する必要はなかったと考えます。このような警察の対応は、メディアを威嚇するものであり、記者の取材活動をいたずらに制限することにつながる危険性があります。

 それを踏まえると、検察の不起訴処分は当然の判断と言えます。取材目的で建物に立ち入った行為について、建造物侵入罪を規定した刑法130条が違法性阻却事由として掲げる「正当な理由」に当たると検察がみなした可能性が考えられます。今回の事案は、憲法21条が掲げる「表現の自由」に基づく「報道の自由」、そしてその精神に照らして「十分尊重に値する」とされてきた「取材の自由」を根拠に活動するメディアの活動を、大学と警察が力づくで抑えようとした不当な行為だったと考えます。

 建造物侵入罪の乱用により、メディアの取材が制限されたことで争った事例は過去にもあります。これらはメディアだけの立場、利益から問題視しているわけではありません。取材制限が続けば、結局は市民生活に大きな影響を及ぼすものと考えているからです。公権力など権力を持つ側は都合の悪い事柄については情報を秘匿しようとする傾向があり、取材など情報にアクセスすることに対する規制に対しては、メディアはもちろん、全ての市民が慎重に対応することが欠かせません。

 メディアを排除する動きは、普段当たり前に享受している「知る権利」の制限につながる可能性も踏まえて、メディア関係者の範囲を超えて幅広い議論が必要でしょう。取材の目的は、民主的な議論を進めるために必要な情報を多くの人に知らせることです。そうして集めた情報があってこそ、市民が権利を行使するための取捨選択の判断が可能となります。メディアは市民による権力監視のためのツールです。取材・報道においてマスメディアが特権を振りかざしていると批判されていますが、「知る権利」は過去、政治体制や社会が抑圧的で封建的だった時代に先達が勝ち取ってきた市民の権利であり、メディアの権利ではありません。「知る権利」に限らず、制限や規制を伴う事態が起きた際は、市民全体の人権に関係することとして、根拠を明確にさせるとともに、常に注意深く考えていくことが必要です。

 メディアの側にも丁寧な議論を重ねながら、日々の取材・報道の在り方を考えることが求められていることは言うまでもありません。「知る権利」の代行者としての責任において、常に根拠に根ざした行動を取るべきであり、そのような姿勢で真実を追求していく責務があると考えます。

    以上