長崎性暴力訴訟/市議会でのヤジへの抗議と再発防止の要請

2022年1月21日

長 崎 市 長

 田上 富久様

長崎市議会議長

 井上 重久様

長崎市幹部による性暴力訴訟原告代理人

 中野 麻美

 角田由紀子

 中鋪  美香

 平山  愛

日本新聞労働組合連合(新聞労連)

中央執行委員長 吉永 磨美

市議会でのヤジへの抗議と再発防止の要請

 昨年(2021年)6月28日の長崎市議会一般質問において、池田章子市議が長崎市の性暴力撲滅に向けた取組みについて質したところ、議場から「長崎に性暴力はなか」というヤジが飛ばされたと聞き及びました。これについて下記の通り申し入れます。本申し入れに対する回答は、2月14日までに文書にて頂けますよう宜しくお願い申し上げます。

1、 2007年、長崎市原爆被爆対策部長が取材中の記者に性暴力を振るい、これを「男女の関係」とする虚偽情報をメディアに流して公務員の職権乱用を隠蔽する事件が起きました。日本弁護士連合会が2014年、取材中の性暴力と虚偽の風説流布に対策を講じなかったことを人権侵害と認め、謝罪と再発防止に向けた取組みをするよう市に勧告しました。日弁連の人権救済手続きを通じて事態を明らかにすることは記者と市との合意に基づくものでしたが、市は同勧告を無視し続けたため、記者は2019年に市を提訴しました。

 この訴訟では2020年5月の証人尋問で、会計管理者が週刊誌に話を出したと認めました。市が原告の代理人や原告の所属社から二次被害防止を強く求められていたにもかかわらずです。週刊誌取材を受けた理由について会計管理者は、「長崎市の市議会議員のある方から取材の部分で会ってくれということでお願いされた」「私の尊敬する方でしたから別に断るということは考えませんでした」と証言しています。その結果、週刊誌に原爆被爆対策部長の言い分のみが掲載され、原告や原告を支える人たちを苦しめました。

2、 長崎市議会では2019年7月にも、「被害者はどっちか」というヤジが飛びました。これは、虚偽の風説流布と性暴力につきものである被害者への責任転嫁を正当化し、そうした土壌があるため性暴力を告発できず根絶もできないという現状を容認する点で、到底許容できないものでした。原告弁護団と新聞労連は、同年11月に市及び市議会に厳しく抗議したのは当然のことで、市議会は「発言者を特定できない」としつつ、「議会としては誰かを傷つけるヤジは慎むべき」という回答がありました。しかし、2年を経た2021年にまた「長崎に性暴力はなか」というヤジが飛ばされる事態となりました。議会を取材した映像を入手し調べた結果、ヤジの発言者である男性議員が特定できました。

 性暴力根絶の課題を議論しようとしている場面で「長崎に性暴力は無(な)か」とするヤジは、根強い女性への偏見や固定観念によって性暴力を否定し、被害を訴える女性に責任を転嫁し、性暴力をなかったことにしてしまう風潮を是認するもので、2019年のヤジと同根のものです。このような発言が繰り返されるのは、市と市議会が問題を軽視し、深刻な被害があるにもかかわらず性暴力を告発できないという社会構造について全く関心を払おうとせず、自らの加害性を顧みない姿勢によるものです。

3、 「長崎において性暴力根絶の課題はあり得ない」とするこのヤジは、男女共同参画社会基本法に基づく市の責任を放棄しても構わないと受け止められるものであり、性暴力とその後の虚偽の風説流布をあってはならないという被害者と私たちの存在や行動を否定するものです。そして、今もって前記虚偽が議会で生き続けていることを改めて認識させられました。

 このようなヤジを放置することは許されません。なぜならこれが、市議会という自治と民主主義の砦においてなされた発言であり、性暴力とその根絶に向けた行動に対する否定の扇動につながるからです。市は「責任と誠意を尽くした」と主張しますが、そうであるならばこのようなヤジが平然と出てくることはあり得ません。市は行政責任を尽くし、このようなヤジを許さない姿勢をはっきり示すべきです。市においてこのようなヤジを放置する現状が、原告の尊厳を傷つけ続け、原告のみならず性暴力根絶を求め行動する全ての人々の存在を否定し続けるのです。以上、市議会でのヤジに対して強く抗議し、以下のことを要請します。

4、要請内容

①長崎市におかれましては、市が、市議会の議決を経て定めた差別とハラスメントを禁止する「男女共同参画基本条例」に基づく責任を自認するのであれば、このようなヤジを許さず、性暴力と二次被害根絶に向けて誠心誠意努力していく姿勢を、市議会はもちろん市民に向かって広く宣明すべきです。

②長崎市議会におかれましては、発言した議員を究明し、謝罪をするよう、本人に対して促すことを求めます。また、議会において、被害者を苦しめるこのような発言を繰り返さないよう再発防止を徹底することを求めます。

以 上