「しんぶん販売考」第3話
「しんぶん販売考」第3話
「景品」規制緩和の功罪
防災グッズに、多機能ラジオ、洗剤セット…。
新聞の購読申し込みはがきには、通信販売のカタログさながらに、さまざまな景品の写真が並ぶ。こうした新規購読者向けプレゼントにいかに魅力ある商品をそろえるかが、今や販売局員たちにとって大切な仕事の一つとなっている。それにしても、景品なしには新聞は売れなくなってしまったのだろうか。
▽業界内で激しい綱引き
新聞業界は1964年、自主規制ルールを定めた「新聞公正競争規約」をまとめ、30年以上にわたって景品による購読勧誘を自主的にも禁止してきた。しかし、拡張競争の激化で実質的にルールが守られていないことが、たびたび問題となった。
94年、公取委が設置した「景品規制の見直し・明確化に関する研究会」が、新聞の景品規制について大幅な見直しをする必要があると提言した。これを受け、業界内では大きな議論が巻き起こる。「景品禁止のルールを守れないから規約を緩めるのか」と緩和に反発する地方紙。これに対し大手紙は「無購読者が増えている中で各社が守れるルールで魅力ある販促活動を実施することが急務」と主張し、両者で激しい綱引きが行われた。
そして、98年9月、新聞業界は景品の使用禁止から使用制限へと規約改正する。「景品は公正な競争を阻害する」というこれまでの主張を大転換させた瞬間だった。現在、新聞定価の6カ月分の8%を上限にした景品提供が認められている。いわゆる「6・8ルール」だ。
▽長期購読者から不満の声
禁止から容認へ――歴史的転換をしてから8年余。「プレゼント効果」はどうだろう。
残念ながら販売現場の苦しさは変わっていない。景品を提供して読者を獲得しても、半年から1年の期限付きの契約にとどまり、更新時にまた同等の景品を持っていかないとサインしてもらえないのが現実だ。経費過多になるばかりか、無購読者対策にも結びついていないのだ。
一方、同一紙を長年購読している読者からは「購読紙を替える人だけが景品をもらえるのはおかしい」と不満の声が上がっている。販売現場の矛盾ばかりが一層際立ってきた。
そんな中、東京に本社をおく大手二紙がこのほど、今年4月からビール券など金券類の使用禁止を申し合わせ、各販売店に通告した。金券類は拡張員たちにとって最も中心的な”武器”だった。その禁止を申し合わせた意味は大きく、正常販売の実現に近づくものという見方もある。だが、多くの関係者は、新聞経営を圧迫するだけの景品を使った販売政策に「限界が見えた」ととらえている。結局のところ、景品は拡張戦争をエスカレートさせこそすれ、安定的に読者数を底上げしていく工夫と努力を怠らせたのではないだろうか。
いずれにしろ、販売競争に再び転換点が訪れようとしているのは確かだ。
【労連副委員長・小関勝也】※新聞労連機関紙2007年3月号より