メディアで働く女性の労働改善に関する申し入れ

一般社団法人日本新聞協会
会 長  白石 興二郎 殿

メディアで働く女性の労働改善に関する申し入れ

2018年5月24日
日本新聞労働組合連合
中央執行委員長 小林基秀

 新聞労連は4月21、22日、新聞などメディアで働く女性の問題の課題や解決方法を探るため、新聞労連加盟の29単組の男女53人が参加する全国女性集会を開催しました。集会では、読売新聞東京本社の編集局専門委員でジェンダー担当の笠間亜紀子さんの基調講演に続いて、▽家庭(子育て、介護)と仕事の両立支援制度▽女性のキャリアアップ▽セクシュアルハラスメントの現状、原因、対策について、シンポジウムや分散会で話し合われました。集会の中で、新聞協会への要請案として参加者から出された意見を集約し、さらにその後の状況なども踏まえ、以下のように貴協会に要請し、申し入れます。

一、家庭と仕事の両立について
 家庭と仕事の両立について、業界全体として上司や同僚の無理解や支援制度に不備が見られ、女性従業員が安心して子育てしながら働ける環境にありません。また、子育てによる時間的制約などにより、フルで働く職員と比べて、著しい賃金の格差があり、昇進において、子育てをしている女性従業員が不利になる状況にあります。メディア業界内でも、一部企業では既に取り入れている、両立支援制度の導入を加盟各社に働きかけるよう、求めます。
 具体的には、▽個別の事情に応じて多様な働き方を認める短時間勤務制度▽子育て夫婦の同一赴任先▽転勤猶予制度▽在宅勤務▽日勤デスク▽働き方に応じた基準外賃金手当の柔軟な支給▽子どもの世話で忙しい時間に問い合わせを見合わせる配慮――など、先進的制度について加盟社の間で積極的に情報共有を行ってください。また、既存制度以外に、女性従業員の意見を聞き取り、実情に即した両立支援制度について研究を進め、毎年増え続ける女性従業員の職場環境の改善に努めるよう、要請します。

二、キャリアアップについて
 5月16日、国政選挙などで候補者の男女比率を均等にするよう政党に努力義務を課す「政治分野における男女共同参画推進法」が成立しました。各党に「男女の候補者の数ができる限り均等」とすることや、数値目標の設定など自主的な取り組みを促すもので、政治分野における女性の進出が期待されます。このように、女性の意見を尊重し、女性が決定権を持つ役職に就くことを促そうと、社会の潮流がある中で、新聞などメディア業界において、女性の管理職の登用率はまだまだ低いと言わざるを得ません。
 政府は2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%に引き上げる目標を掲げていますが、業界全体で見ると、ほど遠い状況にあります。管理職登用の低さから起こり得る弊害として、現状では、男性目線の編集・報道に偏り、結果として女性を含めた社会の多様性を反映できていないと言えるのではないでしょうか。それは読者離れのみならず、多様な価値観を尊重しあう民主主義社会を築く際の阻害要因となります。また、近年は新規採用の半数近くが女性なのに、同性の管理職が少ないために、女性従業員の思いを柔軟に受け止められないことから、優秀な人材が集まらず、流失してしまう懸念があります。貴協会におかれましては、そのリーダーシップを発揮し、女性従業員の管理職登用率について、業界全体で目標数値を掲げるとともに、目標到達のために期限を設定することを要請します。

三、セクシュアルハラスメントについて
 貴協会は、4月に明るみになった福田淳一前財務次官による、テレビ朝日の女性記者に対するセクシュアルハラスメント事案について、当事者である省庁・大臣、またその周辺の政治家、政府の発言や対応に対して、声明や見解を出していません。
 貴協会が掲げる新聞倫理綱領では「国民の知る権利は民主主義社会をささえる普遍の原理であり、あらゆる権力から独立したメディアが存在して初めて保障される。新聞はそれにもっともふさわしい担い手であり続けたい」とあります。また、新聞の責務について「正確で公正な記事と責任ある論評によってこうした要望にこたえ、公共的、文化的使命を果たすことである。その責務をまっとうするため、また読者との信頼関係をゆるぎないものにするため、言論・表現の自由を守り抜くと同時に、自らを厳しく律し、品格を重んじなければならない」としています。
 同綱領によれば「新聞は人間の尊厳に最高の敬意を払い、個人の名誉を重んじプライバシーに配慮する」とありますが、国民の知る権利を支えるジャーナリズムの現場で働く者の尊厳をどのように考えているのでしょうか。併せて、ジャーナリズムの現場におけるセクシュアルハラスメントについて、貴協会の見解をお聞かせください。
 新聞労連は、セクシュアルハラスメントは人間の尊厳を著しく傷つける人権侵害だと考えています。貴協会が、編集・営業・販売など、各社で働く全ての人へのセクシュアルハラスメントに対して断固抗議すること、などを協会加盟社が連帯して社会へアピールすることを要請します。さらに業界内でセクシュアルハラスメントの被害実態を把握する調査をされることを求めます。セクシュアルハラスメントにおける対応や防止策について、解決に向けた手順について、貴協会がその方法について率先して研究し、その指針となるものを加盟社に提示してください。
 各社のトップが①セクハラは人権侵害である②セクハラを受けた社員を会社は全力で守る③セクハラをした社員は厳正に処分する-とのメッセージを内外に発すれば、状況はかなり改善されると考えます。実効性のある早急な対策を望みます。
 また、採用試験において受験者に「セクハラを受けたことがあるか」や「どんなセクハラを受けたか」という質問は、ハラスメントとなります。採用の可否に関係ない上に、もし受験者が過去にセクハラ被害を受けていたら、フラッシュバックなど二次被害を引き起こす恐れもあります。さらに、この質問を女性の受験者だけに聞いていたら、男女雇用機会均等法に抵触します。こうした質問は、新聞業界の評価を著しく下げることになりますので、加盟各社に早急に周知徹底するよう要請します。

以上