労連声明:「賭け麻雀」を繰り返さないために

 新型コロナウイルスの感染拡大をうけた緊急事態宣言下、産経新聞の記者2人と朝日新聞の管理職社員(元記者)が、東京高検の黒川弘務検事長と賭け麻雀をしていたことが発覚しました。賭け麻雀は賭博罪に抵触します。報道機関の人間が、権力者と一緒になって違法行為を重ねていたことは、権力者を監視し、事実を社会に伝えていくというジャーナリズムの使命や精神に反するもので、許しがたい行為です。しかも、この賭け麻雀は、検察庁法改正案に関連して、黒川氏の異例の定年延長に市民の疑念や批判が高まっているさなかに行われました。市民はメディアと権力の癒着を感じ取り、黒川氏の問題を愚直に追及してきた新聞記者たちの信頼をも揺るがしています。

 今回の問題は、3人を断罪すれば、解決する話でもありません。
 公権力の取材においては、圧倒的な情報量を持つ取材先から情報を引き出すために、新聞記者は清濁合わせ呑む取材を重ねてきました。特に、捜査当局を担当する記者は、ごく少数の関係者が握る情報を引き出すために、「取材先に食い込む」努力を続けています。公式な説明責任に消極的な日本の公権力の動きを探り、当局が把握している事実を社会に明らかにしていく上で有用とされ、そうしたことをできる記者が報道機関内で評価されてきました。

 しかし、こうした取材慣行は、ときに「犯人視報道」による人権侵害につながっていると指摘され、取材記者のセクシュアルハラスメント被害の「泣き寝入り」の温床にもなってきました。長時間労働を前提にしてきた無理な働き方で、育児などとの両立も難しく、結果的に女性が育児を担うことが多い日本社会において、女性の参入障壁にもつながっています。

 さらに、捜査関係者と並走することによって政治権力の不正を暴き、権力監視の一端を担うことができた環境からも変化しています。平成の30年あまりの政治・行政改革によって、首相官邸への権限集中が進みました。今回の黒川氏の問題で取りざたされたように人事権を通じた官邸の影響から捜査当局や裁判所も無関係とは言えません。逮捕状の執行が見送られた末、刑事事件では不起訴になったものの、民事裁判で性暴力が認定された伊藤詩織さんの事件や、公文書を改ざんした当時の財務省幹部らが全員不起訴になった森友学園事件のように、捜査当局の判断に市民が疑問を感じるケースが増えています。当局との距離感を保ちながら、市民の疑問に応えられる取材・報道のあり方が強く求められています。

 新聞労連は、事実を報じるためにあらゆる取材手法を駆使する記者に敬意を表し、安易な取材規制には反対です。しかし、報道機関を支えているのは、権力者ではなく、市民であることを忘れてはなりません。市民の信頼なくしては存立することはできません。森雅子法相が5月26日の記者会見で、今回の賭け麻雀問題を受けて「法務・検察行政刷新会議」を設け、対応策を検討していく考えを明らかにしましたが、公権力主導での取材規制に陥らないよう、報道機関が自らを律して、改革をしなければなりません。

 「賭け麻雀」は市民や時代の要請に応えきれていない歪みの象徴です。
 次世代の記者が同じような歪みを我慢し、市民からの不信にさらされないように、各報道機関の幹部には体質の転換に向けた具体的な行動を強く求めます。

2020年5月26日 
日本新聞労働組合連合(新聞労連)
中央執行委員長 南  彰