2019年度労連ジャーナリズム大賞・疋田桂一郎賞が決定
大賞は毎日新聞の「NHKかんぽ不正報道への圧力に関する一連の報道」に
「平和・民主主義の発展」「言論・報道の自由の確立」「人権擁護」に貢献した記事・企画・キャンペーンを表彰する第24回新聞労連ジャーナリズム大賞・第14回疋田桂一郎賞の受賞作品が以下のように決まりました。
日本の報道やジャーナリズムにおけるジェンダーバランスを見直していくため、今回から選考委員を男女同数としました。対象は、原則として2019年に新聞労連加盟組合の組合員が取り組んだ記事・企画・キャンペーン。応募があった25作品から選定しました。
表彰式は、1月22日午後5時から台東区民会館で行う予定です。
【大賞】
●NHKかんぽ不正報道への圧力に関する一連の報道
(毎日新聞NHK問題取材班)
【優秀賞】(2件)
●改正ドローン規制法など、権力の暴走をただす一連の報道
(沖縄タイムス・阿部岳さん、金城健太さん、伊集竜太郎さん、知念豊さん、大城大輔さん、下里潤さん、大野亨恭さん、又吉俊充さん)
●キャンペーン報道「にほんでいきる~外国からきた子どもたち」
(毎日新聞「にほんでいきる」取材班)
【特別賞】(2件)
●国際女性デーを中心に展開する「Dear Girls」の一連の報道
(朝日新聞「Dear Girls2019」取材班)
●「#metoo #youtoo」
(神奈川新聞社「#MeToo#YouToo」取材班)
【疋田桂一郎賞】(2件)
●「家族のかたち 里親家庭の今」
(長崎新聞社報道部・熊本陽平さん)
●Yナンバー白タク問題を巡る一連の報道
(沖縄タイムス社会部・比嘉太一さん、西倉悟朗さん)
(※専門紙賞は該当なし)
《選考評》
【大賞】
●NHKかんぽ不正報道への圧力に関する一連の報道
(毎日新聞NHK問題取材班)
かんぽ生命保険の不正販売問題を追及したNHK番組をめぐり、放送法で個別番組への介入が禁じられているNHK経営委員会が、日本郵政グループの抗議を受けてNHK会長を厳重注意していた問題を特報。NHKが圧力に屈した背景や経緯についても詳報し、公共放送の自律性が脅かされている現状を浮き彫りにした。日本の「報道の自由」「表現の自由」が危機的状況にあることに警鐘を鳴らすスクープであり、メディアのあり方を問い直した功績は大きい。
【優秀賞】(2件)
●改正ドローン規制法など、権力の暴走をただす一連の報道
(沖縄タイムス・阿部岳さん、金城健太さん、伊集竜太郎さん、知念豊さん、大城大輔さん、下里潤さん、大野亨恭さん、又吉俊充さん)
改正ドローン規制法によって、沖縄では暮らしと隣り合わせの軍事活動を監視する「目」がふさがれることや、産業にも影響を与える問題点を、連載「ドローン目隠し法案」などを交え、重層的に伝えた。公権力が「名誉毀損」で市民を訴えようとした宮古島市の問題でも、市の提訴方針をスクープした後、住民の活動を萎縮させるスラップ訴訟の問題点を問うキャンペーン報道を展開し、市の議案撤回に追い込んだ。
●キャンペーン報道「にほんでいきる~外国からきた子どもたち」
(毎日新聞「にほんでいきる」取材班)
労働力不足のために外国人受け入れを広げる日本で、働き手の子どもたちが生きていく権利が十分には守られていない実態を広く伝えるキャンペーン報道を展開した。独自の自治体アンケートで就学状況が把握できない外国籍児が少なくとも1万6000人いることを示し、文部科学省の全国調査にもつなげた。記者が拾わないと救えない声を丁寧に救い上げ、私たちの隣で起きている問題について考える好企画だった。
【特別賞】(2件)
●国際女性デーを中心に展開する「Dear Girls」の一連の報道
(朝日新聞「Dear Girls2019」取材班)
●「#metoo #youtoo」
(神奈川新聞社「#MeToo#YouToo」取材班)
朝日新聞の「Dear Girls」は、世界経済フォーラムが公表している男女格差(ジェンダーギャップ)の国別ランキングで日本が毎年低い評価を受けていることに問題意識を持った記者有志が所属部門を越えて集まり、2017年から継続的に取り組んでいる。新しい新聞ジャーナリズムのあり方であり、「男性優位」のメディア業界において、女性記者たちが声を上げて自分たちで変えていくことができる可能性を示した。神奈川新聞の「#metoo #youtoo」は、自社幹部が性犯罪や重大なハラスメント行為で懲戒解雇されたことをきっかけに、自分たちの足元のメディア業界の実態にも斬り込んだ。性暴力や性差別が横行する背景を浮き彫りにし、「すべての人の尊厳が守られ、だれもが働きやすい社会」を目指す企画だった。
【疋田桂一郎賞】(2件)
●「家族のかたち 里親家庭の今」
(長崎新聞社報道部・熊本陽平さん)
予期しない妊娠・死別・虐待などの理由で実の親と暮らせない子どもが全国に4万5千人いると言われるなか、里親家庭を通じて、これからの「家族のかたち」を問いかけた。当事者たちの心のひだまで丁寧に書き込んでおり、「血統神話」が根強い日本社会のなかで悩んでいる家族にとって灯火になるような企画だった。
●Yナンバー白タク問題を巡る一連の報道
(沖縄タイムス社会部・比嘉太一さん、西倉悟朗さん)
米軍関係者の私有車「Yナンバー」が、許可を受けずに有償で客を運ぶ「白タク」行為を組織的にしている問題を暴き出した。警察による摘発が難しかった「白タク」行為を捉えた動画を「ユーチューブ」で公開するなどして、米軍当局にも違法行為を認めさせた。地域・生活の視点から、米軍基地問題を浮かび上がらせる報道だった。
《選考委員会としての総評》
8作品(6単組)だった昨年から大幅に増え、第1回(1996年)以来の多さとなる25作品(16単組)の応募があった。イージスアショア配備問題をめぐる秋田魁新報のスクープ報道や、旧優生保護法に関する報道で新聞協会賞を受賞した後も、現在の問題に引きつけて継続的に取り組んでいる毎日新聞のキャンペーン報道「優生社会を問う」などの力作がそろっていた。ウイグルでの弾圧の実態に迫った北海道新聞の長期連載「中国・遠い民主化」や、熱意に満ちた紙面展開で川崎市のヘイトスピーチ規制条例制定を後押しした神奈川新聞の一連の報道、被害者の日常の姿を伝えようと取り組んでいる新潟日報の長期連載「素顔~新潟水俣病被害者の暮らし~」なども評価が高かった。また、戦後日本を代表する憲法学者の軌跡を追いながら、現代の憲法課題を問題提起した信濃毎日新聞の連載企画「芦部信喜 平和への憲法学」や、末期がんになった馬場有・福島県浪江町長(当時)から託された東日本大震災直後の実態や未来の世代への教訓などを伝えた朝日新聞の連載企画「てんでんこ『遺言』」も優れた作品であり、多くの若手記者に読んでもらいたい。
選考委員会をリニューアルした今回の選考では、メディアの足元をしっかり見つめ、「言論・報道の自由」を問い直していく記事や、新しい新聞ジャーナリズムの可能性を切りひらくものを重視した。2017年5月に伊藤詩織さんが性被害を告発する記者会見を行った際には、今回「Dear Girls」で特別賞を受賞した朝日新聞も含めた多くの新聞が報道せず、市民のメディア不信を招いた。今回、「フラワーデモ」のきっかけとなった福岡地裁久留米支部や名古屋地裁岡崎支部での性暴力の「無罪」判決を掘り起こした毎日新聞と共同通信の記事など、ジェンダーに関する作品の応募が多く寄せられたが、編集局全体の理解があれば、より充実した報道にできたと思われるものもあった。「男性優位」のメディア業界において、どのように改善していけばいいのか、それぞれの現場で考えを深めて欲しい。また、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんの問題提起が注目を集めるなか、環境問題に関連した応募作品は少なかった。多様なテーマへの取り組みを期待したい。
今回新設した専門紙賞については、応募作品が少なく、競争が働かなかったため、今回の選出は見送った。しっかり専門紙賞のコンセプトを固め、業界紙・スポーツ紙などの優れた取り組みを引き出していけるように、新聞労連に改善を求めたい。
今回の応募作品のなかには、会社の枠を越えて「同じ現場で取材するライバルにエールを送りたい」と他薦するケースもあった。また、ヘイトスピーチに関する報道に取り組む神奈川新聞の石橋学記者が差別的な演説をしていた元市議候補から訴訟を起こされたときに、沖縄から川崎に記者を派遣し、差別と闘う記者を支える言論をリードした沖縄タイムスの記事も特筆に値する。言論の自由・報道の自由が危機にさらされるなか、新聞労連の新聞研究部などの活動を通じて、ジャーナリストが横の連帯を深めていく必要性は高まっている。そうしたなかで、中日新聞労組(労連非加盟)に多くの記者が所属する「東京新聞」「中日新聞」から作品の応募がない状況は残念だった。昨年、東京新聞記者(中日労組所属)に対する首相官邸による質問制限問題をめぐって、新聞労連が中心に動いた事例もある。労連ジャーナリズム大賞をはじめとする新聞研究部の活動などを活用しながら、幅広い連携を模索して欲しい。
《選考委員》
・浜田敬子さん(BUSINESS INSIDER JAPAN 統括編集長・元AERA編集長)
・青木理さん(元共同通信記者、ジャーナリスト)
・臺宏士さん(元毎日新聞記者・『放送レポート』編集委員)
・安田菜津紀さん(フォトジャーナリスト)