あらゆる政治勢力の報道介入を許さない
2023年3月16日
日本新聞労働組合連合(新聞労連)
中央執行委員長 石川昌義
放送法が規定する「政治的公平性」の解釈を巡り、安倍晋三政権下で従来の解釈を変更するよう求める不当な政治的圧力があったことを示す行政文書の存在が明らかになりました。当時の高市早苗総務相は、総務省が文書をまとめた後の2015年の国会答弁で、政治的公平性について「放送事業者の番組全体を見て判断する」との従来見解を説明した一方、「一つの番組のみでも、極端な場合は公平性を確保しているとは認められない」と補足しました。この見解は、高市総務相が16年に行った放送事業者への停波命令の可能性への言及につながる内容です。政治的公平性とは、政治権力が放送内容の是非を判断する基準ではなく、憲法が定める「表現の自由」に基づき、番組内容への政治的干渉を受けず、放送事業者が自主的に順守する倫理を規定したものです。報道の自由に介入し、自由な取材と発信を規制する解釈変更は、断じて容認できません。
総務省が公表した行政文書には、文書が起案された14~15年に首相補佐官だった自民党参院議員(当時)の礒崎陽輔氏が「けしからん番組は取り締まるスタンスを示す必要がある」「俺の顔をつぶすようなことになれば、ただじゃあ済まないぞ。首が飛ぶぞ」などと官僚に対して解釈変更を執拗に迫った発言や、放送法を巡って高市総務相と安倍首相が電話協議した経緯が記されています。民放番組の放送内容への具体的な圧力も明記されています。首相官邸や高市総務相の一連の対応からは、政治報道や選挙報道での政権与党への批判を封じる意図が読み取れます。自民党は14年の総選挙の際に選挙報道の「公平中立」を在京民放局に要請した上、18年の自民党総裁選では新聞・通信各社に同趣旨の要請を行いました。安倍首相(当時)は民放の選挙報道に不快感を公言したこともあり、「報道は萎縮し、政権に忖度している」との市民の厳しいマスコミ批判にもつながっています。
1950年に施行された放送法は、大本営発表をそのまま伝え、戦意をあおった戦時中の国策放送への反省から生まれました。特殊法人として新生した日本放送協会(NHK)も、51年から始まった民間放送も、放送法の理念に立脚しています。50年に発足した新聞労連も、戦争協力への痛切な反省から、その歩みを始めています。私たち新聞労働者は「伝えるべきことを伝える」という原点を忘れず、取材現場を共にする放送局員と連帯し、政治の圧力に屈することなく報道を続けます。
以上