ジャーナリストへの性加害は許されない 司法などの場における二次加害を改めよ ー前橋地裁の無罪判決確定に抗議するー

 福島県を拠点とする復興ボランティア団体代表が、知人女性Aさんに性暴力を振るったとして、不同意性交等の罪に問われた事件で、前橋地裁は3月2日に無罪判決を言い渡した。検察は控訴せず、16日に無罪が確定した。Aさんはジャーナリストを志し、東京電力福島第1原発事故からの復興への取り組みが続く福島に移住し、取材活動やボランティア活動を続けていた。ボランティア団体代表の男性は、Aさんにとって重要な取材対象の一人であり、その復興活動を手伝うこともあった。被害当時、Aさんは男性と共通の知人女性を取材しており、その後、男性との懇親の一環で飲酒をした際に被害に遭った。

 取材活動などを巡り、ジャーナリストが性暴力の被害に遭うケースは後を絶たず、深刻な状況が続いている。ジェンダー平等の実現を掲げ、長崎市性暴力訴訟、国会議員秘書による性暴力国賠訴訟などで被害者を支援してきた新聞労連や日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)は、改めてあらゆる性暴力を許さない立場を明確にする。

 Aさんは事件後PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しみながら、勇気を振り絞って被害を訴え、公判では詳細に被害の実態を証言した。にもかかわらず判決は証言の信用性を否定し「同意しない意思を全うすることが困難な状態にあったと認めるには合理的な疑いが残る」と断定した。男性が取材対象者であるうえ親子ほどの年齢差があるため、Aさんとの間に著しい権力勾配があったこと、事件後も心身の被害が続いていること、そして性暴力被害者に特有の心理や状況などを考慮していないこの無罪判決に、強い憤りを表明する。検察の控訴断念により刑事裁判の場で真実を明らかにする機会を被害者から奪ってしまったことに強く抗議する。

 また、事件捜査や公判の中で、警察や検察による深刻な「二次加害」があったことにも抗議する。証人尋問で被告人の弁護人はAさんに対して「あなたの目の前には出入口があったのに、なぜ逃げなかったのか」「顔をひっぱたいてやろうとは思わなかったのか」などと問い、被害の詳細を執拗に尋ねた。Aさんは意見陳述で二次加害を「裁判で一番つらかったこと」と述べ、「私の人間性や人格を丸ごと否定されたと感じている」「暴力の責任を被害者に押し戻すなんて、悪魔だと思った」と悲痛な声を上げている。

 こうした二次加害は、司法の場などで頻繁に繰り返されている。民放労連やMICが支援した国会議員秘書による民放の元報道記者への性暴力を巡る国家賠償訴訟(元記者勝訴が確定)では、被告の国側は性暴力事件そのものについて「被害者が抵抗し尽くしたことを証明できていない」などと主張した。新聞労連が支援する大手新聞社の元社員を巡る争議では、元社員は上司からの性加害を訴え、加入する労働組合「新聞通信合同ユニオン」が被害の実態調査に関する団体交渉などを求め東京都労働委員会に救済申し立てをしているが、会社側は都労委調査において、上司への聞き取りのみを基に性加害を否定する主張を繰り広げた。申し立ての争点はあくまで団交の可否であって、会社側が性加害の存否に言及する必要はなく、元社員をさらに傷つけていることは言うまでもない。

 準強制性交罪に問われている元大阪地検検事正の事件で被害を訴えた女性検事、ひかりさんと支援チームが3月に発表した、性犯罪被害者らを対象にしたアンケート結果では「性暴力をなくし被害者が生きやすい社会にするために望むこと」との問いに「警察官、検察官、裁判官による二次加害の防止」と回答した人が約9割に上った(複数回答)。2023年施行の改正刑法で性犯罪規定が見直された際、国会の付帯決議で捜査や公判において被害者心理や心的外傷を踏まえる必要性に触れたほか、被害者の心身に十分配慮するよう求めている。被害者をより追いつめ傷つける二次加害が二度とないように、警察や検察、裁判所、労働委員会などの行政機関は被害者心理に十分な配慮を行い、被害者の心身の回復を妨げることがないよう対応しなければならない。

 Aさんは意見陳述で「今ここに立っているのは、自分の未来を取り戻すためです」と訴えた。被害者の権利が守られ尊厳が回復されるように、Aさんが未来を取り戻せるように、新聞労連とMICは今後も女性の思いに寄り添い、支援していく。

2026年4月3日

日本新聞労働組合連合(新聞労連)中央執行委員長

日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)議長

西村誠