国民投票法案に関する見解

国民投票法案に関する見解

2006年12月11日
新聞労連 中央執行委員長
嵯峨 仁朗

 新聞労連は、国民投票法案に強い疑念を抱いており、法案には見直しと慎重な審議を求めたい。

 同法案は、法案名を「国民投票法案」としているために、投票手続きの議論に注目しがちだが、法案の本質的狙いは「憲法審査会」の設置にあると考える。

 同審査会は国会に新設され憲法改定のための調査を行い、改憲の原案を提出することができるとされている。つまり、法案成立によって、改憲を前提にした具体的作業がいつでもスタートできる体制が整うことになる。同時に、体制を整えることで憲法論議を改憲前提へと一歩進ませ、護憲論調に後戻りさせない環境ができあがる。

 自民・公明の与党は野党との協議が進む中で、修正案として、憲法審査会は法施行から3年間は改憲審議の凍結を打ち出した。憲法改正に突き進む印象を和らげようと言う発想からだが、いずれにしろ、改憲へのタイマーがセットされることに何ら変わりはない。

 現行憲法で改憲について記述がある以上、その事務的手続きを法で定めることに反対するものではない。しかし、改憲ありきの審査会設置は、投票の事務手続きとは全く別個の問題である。

 私たちの憲法をどうするか、について国民的議論はまだなされていない。それなのに、改憲を前提とした審査会設置は時期尚早に過ぎる。

 同法案では、憲法審査会設置を切り離した上で、純粋な投票手続きを定める法案として審議すべきだ。

 また、有料の意見CMについては投票7日前から放送禁止しているが、規制はそれだけでルールが全く定められていない。ふつう、テレビCMは膨大な資金が必要で、一般の市民、団体が利用するのは極めて厳しい。自然と、資金力があり組織や政党に有利に主張展開できることになる。これでは、放送法で定めた「政治的に公平であること」「できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」という原則に抵触することになる。憲法という国と国民の行く末を決める重大事案だけに、より公平・明朗なルールづくりを求めたい。

 これまで再三指摘されてきた「広報協議会」による無料の改憲賛否広告の平等化、公務員などの国民運動投票禁止の見直しなどついては与野党協議を通じて是正が進んでいるというが、なお議論と監視が必要だ。そもそも、改憲を発議した国会の議員によって構成されるという「広報協議会」のあり方そのものに疑問があり、そのような組織が憲法「改正」の広報を行うことはメディアの不偏不党を危うくし、表現の自由への介入となりかねない。

 いずれにしろ、憲法審査会設置を主眼として改憲に前のめりに突き進む法案で、本当に公平・公明な投票活動が約束されるのか。不信と疑念はなお消えていない。 

以 上