人権擁護法案の再提出に強く反対する声明
人権擁護法案の再提出に強く反対する声明
2005月2月25日
日本新聞労働組合連合
中央執行委員長 美浦 克教
03年に廃案となった人権擁護法案が、今国会に再び提出されようとしています。新聞社・通信社などで報道に携わる私たちは、取材・報道の自由を脅かすメディア規制法案の再提出に強く反対します。
法案は02年の通常国会に提出されたものの、差別や虐待などとメディアによる人権侵害を同列に置き、人権侵害の調査・救済にあたる「人権委員会」を法務省の外局に位置づけるなど、政府・権力からの独立性を欠いた点が批判を浴びて廃案となりました。
ところが、与党の人権問題等に関する懇話会(座長=古賀誠・元自民党幹事長)は2月3日、メディア規制部分については「凍結」とし、新たに別の法律を設けなければ効力が生じないという修正を加えたうえで、法案を再提出する方針を確認しました。
人権擁護法の本来の制定目的は、差別や虐待などによる人権侵害の救済に加え、警察・入管・拘置所・刑務所などにおける人権侵害を防止することにあるはずでした。ところが廃案になった法案は、こうした公権力による人権侵害に対する規制は緩やかな半面、人権委員会が過剰な取材やプライバシーを侵害した報道だと判断した場合、「特別救済」措置として勧告や公表ができるなど、メディアに対してさまざまな規制の網をかけました。当初の立法趣旨は変質し、メディア規制を狙った法案となっていました。
そんな法案がメディア規制の「凍結」という巧妙な仕掛けを伴って再び提出されようとしています。規制条項を「削除」ではなく「凍結」という扱いにした狙いは、解除がいつでもできる余地を残し、メディアへの威嚇や自主規制の効果をもたらそうとしていることは明らかです。
メディアが取材・報道にあたって人権を十分に尊重すべきことは言うまでもありませんが、その取り組みはメディア自身によって自主的に行われるべきです。
過去にあった集団的過熱取材(メディアスクラム)などの反省を踏まえ、新聞各社は近年、外部の有識者を招いて人権を尊重した取材・報道が行われているかを検証する機関を相次いで設置しました。日本新聞協会は「新聞倫理綱領」を改定して「人権の尊重」を加えました。新聞・通信の労働組合で組織する新聞労連は、活字メディアの自主的な責任制度の早期確立を目指し、関係各団体に「報道評議会」の設立を働きかけています。
こうした流れを顧みることなく、メディア規制の意図を残した人権擁護法案は、憲法21条で保障された表現・報道の自由、国民の知る権利を脅かすものであり、法案の再提出に強く反対します。