委員長談話「長崎市性暴力訴訟の勝訴判決を受けて」

2022年5月30日
日本新聞労働組合連合(新聞労連)
中央執行委員長 吉永磨美

 長崎市の幹部から2007年、取材中に性暴力を受けたとして、女性記者が長崎市に損害賠償などを求めた事件(平成31年(ワ)第114号)の裁判において、2022年5月30日、長崎地方裁判所民事部(天川博義裁判長)は、原告の主張を認容し、同市に約2000万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。

 同地裁は、取材記者に対する公務員の職権濫用による性暴力の事実を認め、「性的自由を侵害するもの」として違法と判断しました。長崎市には判決に従い、責任を認めて控訴せず、原告である女性記者に謝罪することを要請します。

 判決は、加害者の部長(故人)は原告が同意していなかったことを認識し、加害行為は故意によるものだと認めました。その上で、加害行為は「記者の取材に応じる」という、部長が公務員としての職務中に行ったもので、被告の長崎市には国家賠償法上の責任があると認定しました。
 市幹部による証言を基に、一部の週刊誌などによって虚偽が流布され、原告に二次被害を与えました。虚偽の風説による二次被害について裁判所は、二次被害が予見できる時は防止すべく関係職員に注意する義務があったがこれを怠ったとして、市の責任を認めました。
 長崎市は「部長にセクハラ言動があり、原告の心身を危うくする危険性があった」という前提で、「その危険性に気がついていながら、原告は取材優先の考えから適切なセクハラ対応を取らなかった」「事件当日にも適切な対応はできた」など原告の過失を問う主張をしていましたが、一切認められませんでした。裁判所の判断は性加害について、公務員が記者の取材に応じるという職務上で起きたものだとしてその関係性を認定し、市が主張した「強かん神話」に乗じて原告の落ち度を指摘する「過失相殺」の考え方自体を否定しました。
 判決は、「(原告からの連絡などは)取材対象である部長との関係を良好に維持するためものに過ぎない」「取材の協力を求めて連絡してきたことを奇貨として、協力するかのような態度を示しつつ、拒否しがたい立場にある原告に対して、執拗に指示して加害場所に入った」として、仕事で情報を得ようとする記者の側と与える側の公務員の関係性を認めています。職務上得られた情報の出し方を差配する公的機関からのコントロールを受けやすい立場であることが認められたことは、「報道の自由」を体現する新聞社、通信社で働く労働者にとって、大いなる意義があります。
 この判決により、原告の長年の労苦がたたえられました。2018年に起きた財務次官による女性記者へのセクハラ問題から、多くの女性記者、働く女性たちが行政機関の職員、警察、政治家などから取材先や職場におけるセクハラ、性暴力被害の実情を改善するよう、訴えてきました。このような勇気ある告発と、セクハラ撲滅、ジェンダー平等を求める当事者の運動が、原告を後押しすることにもなり、勝利判決に結び付いたものと信じております。そうして、あらゆる暴力、差別や偏見によって傷つき、声を上げられずにいる人々の尊厳の回復と「仲間とつながり社会が変えられる」という希望につながることを願ってやみません。

以上