「答えを差し控える」話法を許さない

―裏金、機密費…権力者は説明責任を果たせ―

2023年12月12日
日本新聞労働組合連合(新聞労連)
中央執行委員長 石川昌義

 自民党安倍派が政治資金パーティー収入の一部を裏金化していたとみられる問題で、安倍派議員に還流した裏金総額が5年間で約5億円に上る、と報じられています。しかし、1千万円超の裏金を受け取ったとされる松野博一官房長官は記者会見で、刑事告発に基づく捜査が行われていることなどを理由に「政府の立場として、お答えを差し控える」と繰り返し、記者の質問に正面から答えていません。内閣記者会加盟の報道各社は12月6日、松野氏に対し、記者会見で具体的に説明するか、別の説明の機会を設けるよう文書で申し入れましたが、松野氏は自らの言葉で語らぬまま、疑惑は政権や与党自民党の幹部に広がっています。内閣のスポークスパーソンであり、自民党最大派閥である安倍派で事務総長を務めた松野氏だけでなく、裏金疑惑が指摘される安倍派議員、さらには岸田文雄首相までも「捜査中」などを理由に明確な説明を避ける姿勢は、不都合な事態に直面した権力者が説明責任を放棄する悪しき風潮につながります。私たちは、市民の知る権利を代行する立場から、すべての権力者に説明責任を果たすよう求めます。

 松野氏は自身の裏金問題が報じられた12月8日の国会審議で、「(お答えを)差し控える」「精査して、適切に対応する」という言葉を27回も使い、あいまいな答弁に終始しました。過去にも首相や官房長官が「仮定のことには答えられない」「説明を控える」と答弁することが頻繁にみられ、その話法は、権力者の視点から「鉄壁」と評されることもありました。政治家や行政関係者が質問に正面から答えない悪弊は地方自治体にも広がっています。

 その一例は、衆院議員時代に自民党の東京五輪招致推進本部長を務めた石川県の馳浩知事の「機密費贈答発言」を巡る一連の対応です。馳知事は11月17日、東京都内で行った講演で、国際オリンピック委員会(IОC)の委員に対して内閣官房報償費(機密費)で贈答品を渡した、と発言しました。馳知事は発言を撤回したことを理由に具体的な事実関係を説明していませんが、その頑なな姿勢には厳しい視線が注がれています。12月8日の石川県議会一般質問で、最大会派の自民党会派の議員が「発言を取り消したから説明責任はないという、間違った教育材料にならないように」と苦言を呈するほどです。

 馳知事は、石川テレビが制作した映画に対する疑義を理由に定例記者会見を開催せず、自身の都合で会見を随時開催する形式に切り替えました。この姿勢には、新聞労連や民放労連などが加盟する日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)が批判声明を発表し、石川県政記者クラブ有志も定例会見の再開を県に申し入れています。都合の悪い時に公の場で発言しない馳知事の態度は、裏金疑惑の渦中にある国会議員の姿勢と共通します。

 捜査や調査を理由に質問に答えない前例は、他にもあります。参院選で地方議員たちに現金をばらまき、法相経験者が公選法違反罪に問われるという前代未聞の事態に発展した河井克行・案里夫妻の買収事件では、菅義偉首相(当時)は克行氏の収監や夫妻の議員辞職・失職を理由に、政権としての説明を拒みました。説明を軽んじる権力者の姿勢は、市民の政治不信、行政不信に直結します。言葉を大切にする職業人である私たち新聞労働者は、言葉を尽くさず、市民に背を向ける権力者の態度を許しません。