情報源の秘匿に踏み込む報道機関への不当な「聴取」を止めよ

2024年4月26日 
日本新聞労働組合連合(新聞労連)
中央執行委員長 石川昌義 

 兵庫県の斎藤元彦知事を批判する文書を作成し、関係機関に配布したとして同県幹部職員が解任された問題で、同県人事課が「事実関係の調査」の名目で、神戸新聞記者に文書を受け取ったかどうか回答を求めていたことが明らかになりました。報道関係者による情報源の秘匿は、情報提供者の報道機関への信頼を確保し、正確な情報に基づく市民の知る権利を守る観点から必要不可欠な記者の職業倫理であり、各種判例でも認められています。記者から経緯を聴取し、情報源の開示を迫る人事課の高圧的な対応は、報道の自由や市民の知る権利を侵害するものであり、厳重に抗議します。

 兵庫県幹部職員による知事批判の文書を巡って、4月19日付神戸新聞朝刊によると、会見後の取材に対して人事課職員は「事実を把握するため、今後も一部報道機関や関係者への聴取を続ける」と述べています。4月18日の斎藤知事の記者会見で、神戸新聞記者は報道の萎縮への懸念を表明しています。報道に対する圧力となる県当局による報道機関への聴取は、即刻止めるべきです。

 批判文書で指摘されている、民間企業からの贈答品を斎藤知事が受け取ったとされる行為については、県産業労働部長が昨年8月に県内企業からコーヒーメーカーとトースター(約6万円相当)を受け取ったことを認め、県議会委員会で「地元製品のPRのため、知事に使ってもらうつもりだった。知事に断られ、返却するのを(3月下旬まで)忘れていた」と答弁しています。兵庫県の内規では「業務に関連する贈答品は、受け取らないこと」とされています。報道機関への聴取は、行政内部の腐敗を明るみに出そうとする内部通報者を萎縮させかねません。

 情報源の秘匿を巡っては、米国の健康食品会社の日本法人が所得隠しをしたとのNHKの報道をめぐり、NHK記者が民事訴訟で取材源に関する証言を拒んだ事案について、最高裁は2006年に「報道関係者は原則として取材源にかかわる証言を拒否できる」とする判断を示しています。新聞労連は1997年に発表した「新聞人の良心宣言」で、公的機関や大資本などの権力を監視し、その圧力から独立するために「情報源の秘匿を約束した場合はその義務を負う」「取材活動によって収集した情報を権力のために提供しない」と規定しています。兵庫県人事課の聴取に対し、「文書を受け取ったとも、受け取っていないとも答えられない」と対応した神戸新聞記者の対応は当然であり、兵庫県政を取材するあらゆる記者は同様の対応を取ることを望みます。

                                     以 上