第142回 新聞労連定期大会 大会宣言

 新聞労連は 7 月 25、26 日の2日間、第 142 回定期大会を開きました。大会で掲げたスローガン
は、「未来へブレークスルー」です。石川昌義委員長はあいさつで、物価高が新聞経営にも影響し、
安易に人件費を削減する傾向があるとし、「新聞をつくるのは『人』。人への投資をないがしろにす
る会社に未来はあるのか」と強調。自由で公正、平和な社会を実現するためにも「責任を持つ存在
であるべき」とし、「前を向いて仲間と一緒に新聞の未来を切り開いていきましょう」と呼び掛け
ました。新聞労連は、働く人たちの声をボトムアップで集め、雇用、暮らし、そして人権を守りま
す。

 新聞社・通信社においては、離職問題が深刻化しています。3~5月に実施した「離職関連アン
ケート」では、全国の単組から 1021 人の在職者が回答、結果は約4割が「辞めたい」という危機
的なものでした。最多の理由は「将来性がない」で、集計分析していくと、不安は業績不振だけで
なく、会社の在り方、働き方に大きな不満や悩みを抱えてのことだと分かりました。具体的には長
時間労働やハラスメント、場当たり的な人事などで、従来から続く根深い問題です。変わらない、
変われない業界の現状が浮き彫りになりました。

 争議で、特に手当を巡っての訴訟が複数続いています。埼玉労組では残業代不払いに関して、東
京労組では全社員に毎年3千円支給していた「錬成費」を労使合意なく廃止した、労働契約法違反
に関して闘っており、経営陣による人件費の一方的な切り下げです。いずれも違法行為を正当化し
ようとするもので、許されるものではありません。また、新聞協会でも労働組合役員へ個人攻撃す
る「組織ハラスメント」に謝罪を求める団体交渉が続いています。いずれも現在も係争中で、弱い
立場に置かれている労働者の救済として、引き続き強力に支援していきます。

 また、離職関連アンケートの結果を先取りするように、2022 年以降「持続可能な業界としてか
つてない懸念はあるけれども、働く者として将来に希望を持ちたい」と、産業政策部が立ち上げた
「新聞の未来」プロジェクトが、今期も活動を継続しています。販売・広告▽印刷▽デジタル▽事
業▽地域報道という班ごとに、それぞれの課題や先進事例を共有したり、調査研究したりしました。
デジタル施策などでは現場に裁量権を持たし、リスクを取った挑戦をしている事例に行き当たった
時には、「まだまだやれることがある」とメンバーも勇気付けられました。

 生成AIが大きな話題になるなど変化の激しいデジタル分野ですが、5月には、6年ぶりにデジ
タル関連職場全国集会(デジタル職懇)を東京で開催。デジタル施策に取り組む各社の担当者らが
現場目線の意見や体験を交換しました。自社サイト内での施策よりも、サイトに至る経路(Google、
Twitter、Yahoo!)対策の重要性、多様なデジタル業務を短いタームに切って「市場と対話しなが
ら」進捗管理することなど、紙面制作とは異なる着眼点を共有しました。働き方に関しては、サイ
トの構築、運営でのストレスという弊害の一方、会社費用負担でのデジタル技能のリスキリング事
例などポジティブな報告もありました。オーディオアド(音声広告)やデータジャーナリズムの伸
長など、さらなる可能性への言及もありました。

 役員の女性枠として設けた「特別中央執行委員」の制度も4期目を迎え、独自の活動を広げてい
ます。前年に発刊された「ジェンダーガイドブック」を基にした講演イベントは、さらに全国各地
に広がりました。新たな動きでは、春先にハラスメントや LGBTQ にまつわる規定やハンドブック
の現状についてアンケートを取り、6月には「メディア業界における LGBTQ」をテーマに大阪市
内で勉強会を開催しました。業界で働く当事者や取材に携わる記者ら計7人が登壇し、性的少数者
に関する報道姿勢や表現、社内制度の課題を巡って意見を交わしました。特に年代による価値観の
違いから対立構造が生まれやすい昨今ですが、「時代の罪」による背景を踏まえ、世代を越えてお
互いに歩み寄る必要を再認識しました。現在は、アンケートにより過半数の単組がハラスメントの
手引き書がない現状を踏まえ、ハラスメントの定義や防止策などを学べる小冊子の作成に取り組ん
でいます。

 言論に携わる私たちを取り巻く環境にも懸念が広がっています。寄稿や SNS、出版などの社外
言論に対する社からの規制が強まっているとして、6 月にシンポジウム「言論機関の言論の自由を
考える」を開催しました。会場席は即日満席の関心の高さで、ハイブリッド形式で約 400 人が参
加。年初めに実施したアンケート結果の報告では、会社の肩書きを使わずとも「事前チェックされ
たことがある」と6人が回答しました。2016 年には北海道新聞で言論規制が強化されようとした
過去があり、新聞労連は同年「事前検閲と誤解される対応を取ってはならない」など言論規制に反
対する声明を出していましたが、問題が再浮上しています。休日を使った取材、出版にも、会社が
不承認とする事例も紹介しました。

一方、社外では神奈川新聞記者が排外主義的な主張を繰り返す男性から名誉毀損で提訴されまし
た。労連は「記者個人を狙い撃ちする嫌がらせ目的のスラップ訴訟」と位置づけています。現在、
東京高裁で係争中です。SNS上では、現職市長が中国新聞の記者を名指しで一方的に批判した上、
記者会見で偏向報道と主張するケースがありました。「言論報道の自由」について、改めて環境を
見つめ直し、原点に立ち返った議論が今こそ必要です。

 今回、うれしいニュースもありました。新たな仲間として、ネットメディアの労組としては初め
て、バスフィードジャパン労働組合が労連に加盟しました。新聞・通信各社もデジタルで展開し始
める今、労働者の権利は紙だけにとどまりません。今後も仲間を増やしながら団結の輪を広げ、「ジ
ャーナリズム」の根幹を大切にしながら、より良い職場環境を保てるよう、共に歩んでいきましょ
う。

 急激な物価高の中、人件費への反映を訴え、数年ぶりのベアを獲得した単組も複数出ました。今
後も労働者の待遇改善を図り、働く場でのハラスメントやあらゆる差別を許さず、多様性に配慮し
た働きやすい職場をつくることは、ジャーナリズムの信頼性や価値を高めることにもつながりま
す。これからも、横のつながりをさらに強固にして、お互いに支え合いましょう。

2023年7月26日
新聞労連 第142回定期大会