2021年度新聞労連ジャーナリズム大賞・疋田桂一郎賞決定

 「平和・民主主義の発展」「言論・報道の自由の確立」「人権擁護」に貢献した記事・企画・キャンペーンを表彰する新聞労連第26回ジャーナリズム大賞・第16回疋田桂一郎賞の受賞作品が決まりました。昨年紙面化された記事などを対象に、以下の4人による審査で、応募があった14労組24作品から選定しました。(昨年の応募は40作品)
 表彰式は1月25日(火)午後5時から、全水道会館大会議室で行う予定です。なお、新型コロナ禍のため、会場参加とWEB併用で実施しますので、受賞者の一部の方は、来場されない可能性があります。
 総評に受賞作品以外の一部を記載しておりますが、応募全作品名は公開しておりませんので、ご了承願います。

【補足】
 新聞労連ジャーナリズム大賞は、当初新聞労連ジャーナリスト大賞として、1996年に制定されましたが、2012年に名称変更しました。全国紙、地方紙を問わず優れた記事を評価し、取材者を激励するために制定した顕彰制度です。
 「疋田桂一郎賞」は、2006年に新設されました。「人権を守り、報道への信頼増進に寄与する報道」に対して授与されます。新聞労連ジャーナリスト大賞の選考委員だった故・疋田桂一郎氏のご遺族から、「遺志を生かして」として提供された基金に依っています。

【選考委員】
・安田菜津紀さん(Dialogue for People フォトジャーナリスト)
・浜田敬子さん(前BUSINESS INSIDER JAPAN 統括編集長・元AERA編集長)
・青木理さん(元共同通信記者、ジャーナリスト)
・臺(だい)宏士(ひろし)さん(元毎日新聞記者・『放送レポート』編集委員)

【選考結果】(敬称略)
大賞(1件)
●特権を問う~日米地位協定60年  (毎日新聞「特権を問う」取材班)
優秀賞(2件)
●「防人」の肖像 自衛隊沖縄移駐50年  (沖縄タイムス「防人」の肖像取材班)
●「五色(いつついろ)のメビウス ともにはたらき ともにいきる」  (信濃毎日新聞社編集局「五色のメビウス」取材班)
特別賞(3件)
●神の川 永遠に―イ病勝訴50年  (北日本新聞社編集委員宮田求⦅もとむ⦆)
●航空自衛隊那覇基地から流出した泡消化剤(あわしょうかざい)に有害物質が含まれていることを突き止めた一連の報道  (琉球新報航空自衛隊泡消火剤流出取材班)
●「核のごみ」の最終処分場選定に向けた全国初の調査を巡る報道  (北海道新聞核ごみ取材班)
疋田桂一郎賞(1件)
●長崎市の私立海星高いじめ自殺問題を巡る一連の報道  (共同通信社千葉支局石川陽一)
専門紙賞 該当なし

【選考評】
大賞(1件)
●特権を問う~日米地位協定60年
(毎日新聞「特権を問う」取材班)
 2020年に発効60年を迎えた日米地位協定。在日米軍による被害の「元凶」とされながらも1度も改定されたことがない地位協定の問題を徹底した取材で改めて掘り起こした。首都異常飛行編では、米軍ヘリが新宿上空でビルに近接した飛行を繰り返している事実を動画で捉え、ツイッターやYouTubeも活用して報道。米兵らの事件事故では群馬、神奈川、山口、沖縄などの関係者を記者が訪ね、遺族の肉声を伝えた。紙面だけでなく、動画を撮影し、米軍ヘリがビルの間を抜けていく現実を見せる手法は効果的で、テロップなどの編集技術も秀逸。視覚にも訴える「今どきの編集」によってジャーナリズムの可能性を広げた。人が見える取材も尽くしており、「特権」の問題を多面的、立体的に浮かび上がらせた。

優秀賞(2件)
●「防人」の肖像 自衛隊沖縄移駐50年
(沖縄タイムス「防人」の肖像取材班)
 沖縄の日本復帰50年となる2022年を前に、1972年に沖縄移駐した自衛隊に焦点を当てた連載。メディアは米軍基地の問題点を恒常的に指摘しているものの、自衛隊についての言及は少ない。「米軍基地のない島」の主張と表裏一体で、「ではこの地域をどう守るか」という現実的な問題がある。中国の脅威が強調されることが多い昨今、沖縄における自衛隊をめぐる課題はもっと知られていいものであり、現在にいたるまで沖縄で自衛隊がどう受け止められてきたかを厚みのある取材によって描いた。防衛省・自衛隊に食い込んでいる共同通信編集委員との共同取材という、組織の垣根を越えた取材手法も高く評価された。

●「五色(いつついろ)のメビウス ともにはたらき ともにいきる」
(信濃毎日新聞社編集局「五色のメビウス」取材班)
 新型コロナウイルス禍が外国人住民や労働者に与える負の影響は深刻さを増している。人口減少が進む日本では、技能実習生を中心とした外国人労働者の存在が不可欠になっている一方で、外国人を「使い捨て」にしている実態もある。本連載では現場ルポや特集、提言のほか、自治体、監理団体、外国人当事者を対象としたアンケートなどを通し、共生の実相と問題点をあぶり出した。連載タイトルの「五色のメビウス」の「五色」には「多種多様」の意味、「メビウス」は表が裏に、裏が表になる「メビウスの輪」から「無限の可能性」の意味が込められている。外国人が日本に住むということがどういうことなのか、360度から捉えた。

特別賞(3件)
●神の川 永遠に―イ病勝訴50年
(北日本新聞社編集委員宮田求)
 四大公害病の一つ、イタイイタイ病。その患者らが原因企業を相手取った訴訟で全面勝利してから2021年で半世紀を迎えたが、地元でも記憶の風化は着実に進んでいる。本連載は、原告で唯一の生存者の証言を基に、日常生活に深く結びついた神通川から病が広がり、日常生活が奪われるという悲劇を描いた。地元紙として風化に抗い、記憶の伝承に取り組んだ作品と言える。イタイイタイ病克服の道のりをたどることで、新型コロナウイルス下の閉塞感や息苦しさと向き合うヒントが得られるのではないかという筆者の考え通り、コロナ禍という世界的テーマを地方の低い目線で紡いだ点でも秀逸だった。

●航空自衛隊那覇基地から流出した泡消化剤に有害物質が含まれていることを突き止めた一連の報道
(琉球新報航空自衛隊泡消火剤流出取材班)
 航空自衛隊那覇基地から2021年2月、泡消化剤が住宅街に流出した問題を追い、空自のリリースの虚偽を明るみに出した。空自は泡消化剤には「PFOS(ピーフォス)、有機フッ素化合物」は含まれていないとするリリースを出したが、有識者の分析から実際には有害物質が含有されていたことを突き止め、防衛相の謝罪、全国の自衛隊基地の調査につながった。権力側の発表や言い分をただ待ち、うのみにするだけではなく、能動的に調べていくジャーナリズムの基本姿勢を貫いた結果、放たれたスクープであり、当局発表を常に疑うことの重要性を改めて感じさせられる。

●「核のごみ」の最終処分場選定に向けた全国初の調査を巡る報道
(北海道新聞核ごみ取材班)
 原子力政策最大の問題に、「核のごみをいかに、どこに処分するか」という難題が横たわっている。日本では核のごみを地下深くに埋設すると定めた法律が2000年に制定されたが、処分場選定の入り口に当たる「文献調査」に応じたのは北海道の寿都町、神恵内村にとどまる。連載では、国と自治体の関係や過疎問題、原発マネーに翻弄される地方など原子力政策を巡るさまざまな問題を取り上げ、検証し、読者に思考の補助線を提供した。知事の権限の限界や地方議会の場当たり主義にも触れ、不都合なものを押し付けるやり方や、民主主義の在り方を俯瞰的に問うた点でも優れている。

疋田桂一郎賞(1件)
●長崎市の私立海星高いじめ自殺問題を巡る一連の報道
(共同通信社千葉支局石川陽一)
 2017年、長崎市の私立海星高校の男子生徒が自ら命を絶った。学校側が設置した第三者委員会は「いじめ」に主な原因があると指摘する報告書を作ったが、学校側は「論理に飛躍がある」と反論して受け取りを拒否している。行政、司法が有効に作用しない中、遺族と学校側の対立は平行線のまま。明らかにされていなかった学校側の対応を入念な取材で浮かび上がらせ、ストレートニュースにこだわって配信した姿勢に加え、長崎支局から他支局の異動後も問題を何とか伝えようとする工夫と執念は今後のさらなる活躍を期待させる。

【全体講評】
 大賞の「特権を問う〜日米地位協定60年」(毎日新聞)や優秀賞の「『防人』の肖像 自衛隊沖縄移駐50年」(沖縄タイムス)は、新聞社が持つ調査報道力をベースに、新たな試みによって、ジャーナリズムの新境地を切り開いた作品で、応募作品全体をリードした。「特権を問う」は、新聞・通信社ならではの、チーム力と積み重ねてきた経験を生かした、重厚な調査報道をベースに、デジタル時代に即して動画など新手法を駆使しており、新時代の新聞ジャーナリズムを予感させる作品だ。一方、沖縄タイムスは、共同通信と連携して陸上自衛隊と米海兵隊が、辺野古に陸上自衛隊の「離島防衛部隊」を常駐させることで極秘合意していたスクープを報じた。共通のテーマで、組織を超えて連携し、事実を追い求める試みは、部数減で産業全体が先細る中、少数精鋭で現場を背負わねばならない新聞産業において、未来志向のジャーナリズムのあり方を見せつけた。いずれも他社をリードする試みで、今後の新聞のジャーナリズム報道に大きな影響を与えることになるとみられる。
 この2作品を含め、地方の視点に立って、国策的課題を掘り下げる作品が目立った。優秀賞の「『五色(いつついろ)のメビウス』ともにはたらき ともにいきる」(信濃毎日新聞)、「プレミアムA 失踪村 ベトナム技能実習生」(朝日新聞)は技能実習生の現場に密着し、抑圧的な技能実習生を取り巻く制度やひどい実態を炙り出し、実質は「移民社会」になっている日本社会の暗部に光を当てることに成功している。両作品とも、地方で起きて問題が発覚しにくい、国策による地域の弊害を地道に追いかけ、地域住民に問いかける、地方ジャーナリズムの本来の役割を果たしており、地方の民主主義の基盤となる報道も目立った。
 特別賞の「航空自衛隊那覇基地から流出した泡消火剤に有害物質が含まれていることを突き止めた一連の報道」(琉球新報)や「『核のごみ』の最終処分場選定に向けた全国初の調査を巡る一連の連載など」(北海道新聞)もその一翼を担った作品といえよう。
 新型コロナ感染拡大から2年目を迎えるが、コロナ禍をテーマにした作品の応募は、世界を覆い尽くす重大テーマにもかかわらず、それほど数が伸びなかった。その中でも、地域住民が苦しんだ公害事件の教訓を振り返り、病を巡る差別や偏見といった、社会の普遍的な病理について描き出そうと工夫し、コロナがもたらす本質的課題に迫る作品の応募があった。特別賞の「神の川 永遠に-イ病勝訴50年」(北日本新聞)、「連載『境界の彼方 とやま自治考』」(同)や「長期企画『明日の風は』」(新潟日報)がそれを試みた。
 2021年夏に開催された東京五輪もコロナと並ぶ、多くの人々の関心事でもある大きなテーマだったが、開催の是非をめぐる点について追及する作品はなかったが、長年女性選手や関係者が苦悩してきた問題を掘り起こした「アスリートの性的画像問題に関する一連の報道」(共同通信)は20年10月から五輪開催時期を経て長期で報じられた。東京五輪でもビーチバレーボール種目の女性選手のウエアを巡る問題などが注目され、この一連の報道を基点に、女性選手の性的な売り物にしたり、中傷したりする旧態依然な状況への社会的な反発が広がっているといえよう。一過性ではない、粘り強い報道が社会の風潮を変えていった好事例だ。
 スポーツ紙の記者ならではの視点で、選手に近い位置で感動する若手記者が1人称で、ネット媒体で書く挑戦をしている。五輪アスリートを人間的視点で追いかけた「池江璃花子の『誰にも泳いで勝てなかったとき』が意味する真のスポーツマンシップ」(東京スポーツ)だ。コロナ禍で取材が難しい中でも、選手の横顔に迫ろうと努力を重ねるスポーツ担当部署の頑張りに期待したい。
 昨年は大賞を受賞するなど応募が増えたジェンダーをテーマにした作品の報道と応募が定着する傾向にある。「東京都立高校入試の男女別定員を巡る一連の報道」(毎日)では女性の合格ラインが高く、不利である可能性が報道されながら、決定打に欠ける中、情報公開で最大で243点差だったことをスクープ。廃止を求める署名運動も立ち上がり、署名が都教委へ提出され、ジェンダー平等の観点で重大な問題を指摘し、社会を動かす契機となった。「キャンペーン報道『女性力の現実〜政治と行政の今』」(琉球新報)は国際的に遅れが指摘される政治分野の女性進出を、政策決定の場への女性の参加を阻む壁について、議員の経験や現場を可視化して検証し、変革の道筋を示そうと試みた。また、経済苦などを抱える母親を支援する「特定妊婦制度」に注目して、制度に絡む問題を可視化することで、マイノリティ性の高い、女性が抱える「生きづらさ」を浮き彫りにした作品が「困難を抱える妊産婦を巡る一連の報道」(共同)だ。非正規や貧困などジェンダー問題が背景にあって、女性が潜在的に抱えやすい問題を「自己責任」ではなく社会全体の問題として捉える視点を広めるきっかけとなった。
 長きにわたり、事実が積み重ねられてきた報道テーマでも、ジェンダー的視点ではこれまで語られてこなかった部分に光を当てた作品もあった。「被爆76年目の長崎原爆・平和報道」(長崎新聞)では、入社2年目で爆心地近くの小学校を卒業した女性記者が、95歳の女性被爆者の人生を辿った連載に取り組んだ。原爆の惨禍に加えてこれまで取り上げにくかった生理の問題など、女性の視点で被爆者に寄り添い、原爆報道を行った。
 東日本大震災10年目の節目を迎え、被災地で書き続ける地方記者たちが、原発事故や地域の復興に関わった人々の証言を残した「震災10年『証言あの時』」(福島民友)は新聞記事の記録性を意識した作品だ。震災直後に語られなかった事実を紡ぎ、復興を進めてきた当事者である福島県の地元首長を体系的に網羅したインタビュー手法は、震災報道の一つの基本として、受け継がれるだろう。
 デジタルシフトや合理化で全国紙が地方から撤退し、地方紙も要員を少なくする中、地域ジャーナリズムが過疎に陥る可能性がある。地域を担当し、コツコツと事件を追う、特ダネを書き続け、ジャーナリズムの基本を守り奮闘する、記者の存在や地方紙の姿勢が際立った作品も評価したい。疋田桂一郎賞の「長崎市の私立海星高いじめ自殺問題を巡る一連の報道」(共同)や「特ダネ記者の半世紀〜県北取材メモから〜」(毎日)は一人の地方記者が掘り起こした事件報道に関する作品だ。特に「特ダネ記者の半世紀」は、通信部記者、通信員などとして、地域に密着しながら地元の環境、鉄道開業など、往年の地域ネタの取材を振り返った記者に焦点を当てた連載は珍しい。この連載から、地域において記録し続ける記者の存在の重量感を感じさせ、あらゆる地域で生きる人々の姿を「記録し、伝える」ことの意義を問いかけられている。
 地域に根を張り、「地元の目」として、ジャーナリズムを、覚悟を持って、取り組もうとする姿勢を見せた報道が「『政治とカネ』のキャンペーン報道『決別金権政治』と一連のニュース報道」(中国新聞)だ。地元議員河井克行法相夫妻による大規模買収事件を検察の本格捜査の4カ月前に独自に報道。過去に多数の県議が絡む買収疑惑があり、「今回こそ根っこの部分から問い直す必要がある」という気概で80回を超える公判を詳報し続けている。地元に端を発しながらも、全国的問題として、地元を冷静に見つめながら俯瞰して政治とカネの問題を追いかける姿勢は、今後の地方紙が担う地域ジャーナリズムに期待される動きではないだろうか。
 今年も専門紙からの応募は伸び悩んだが、「風をつかむ〜市場展望」(日刊建設工業新聞)の1点の応募があった。専門紙の果たす役割を鑑みながら、今後に期待する。

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取材記者を含む多くの性暴力被害をなくすため、長崎地裁に公正な判決を求めます!