デマを防ぎ、命を守る報道を―関東大震災100年
あす9月1日は関東大震災の発生から100年の節目となります。首都圏を襲った激しい揺れと、それに伴う火災は、東京東部や横浜の市街地を焼き尽くす死者・行方不明者約10万5千人の大災害となり、デマを原因とする朝鮮人虐殺が各地で頻発しました。私たち新聞労働者が忘れてはならないのは、新聞報道がデマを拡散し、排外主義をあおった事実です。
1995年の阪神大震災、2011年の東日本大震災など、「未曾有」と表現される大災害は続きます。地球温暖化の影響もあり、水害は毎年のように各地で頻発しています。新聞報道も従来の朝夕刊のみから、デジタルによる即時配信が進んでいます。私たちは今こそ、差別をなくし、市民の命を守るという報道の使命を胸に刻む決意を新たにします。
「不逞鮮人一千名と横濱で戦闘開始 歩兵一個小隊全滅か」「鮮人の陰謀 震害に乗じて放火」-。日本新聞博物館(横浜市)で開催中の企画展「そのとき新聞は、記者は、情報は―関東大震災100年」に展示されている新愛知(中日新聞の前身)の号外の見出しです。国の中央防災会議がまとめた関東大震災の報告書は、流言の拡大に1章を割いています。報告書を紹介する内閣府のホームページも「朝鮮人が武装蜂起し、あるいは放火するといった流言を背景に、住民の自警団や軍隊、警察の一部による殺傷事件が生じた」と記述しています。デマが拡大した背景には、震災で多くの新聞社が発行不能に陥り、正確な情報発信ができなかったことに加え、伝聞情報をそのまま掲載した新聞記事がデマを増幅させたことも多くの歴史研究者が指摘しています。
中央防災会議の報告書が注目する要素に、震災直前の報道があります。報告書は9月1日付東京朝日新聞から「怪鮮人 三名捕はる」「水平社員 騒ぐ」という見出しの記事を取り上げています。いずれも、日韓併合(1910年)後に急増した朝鮮半島からの移住者や朝鮮独立を求める民衆蜂起への嫌悪感、部落差別解消を目指す社会運動への反発といった当時の世相を背景にしたものです。現在はどうでしょうか。政治家や著名人の排外主義的な言動にあおられるように、ヘイトスピーチが社会を覆っています。東京都の外郭団体が主催する人権問題の企画展で関東大震災直後の朝鮮人虐殺に触れた映像作品の上映が中止されるなど、誤った「朝鮮人虐殺否定論」に呼応した行政の対応も各地でみられます。デマの素地を作らないために、歴史を正しく伝え、排外主義の誤りを指摘し、差別に抗う報道の役割は重みを増しています。
排外主義的な災害デマは近年、SNSで拡散しています。生成型AIの普及で、もっともらしい画像や情報を偽物と見破る力が問われています。私たち新聞労働者は、日々の報道で培った取材力をさらに鍛えて、読者の信頼に応える災害報道、防災報道を続けます。
以上
2023年8月31日
日本新聞労働組合連合(新聞労連)
中央執行委員長 石川昌義