東京都労働委員会の不当命令に抗議する

      ~中日新聞社 「錬成費」 廃止事件~

2024 年 2 月13 日
    東京新聞労働組合 執行委員長 宇佐見昭彦
弁護団弁護士 今泉義竜/本間耕三
日本新聞労働組合連合(新聞労連)中央執行委員長 石川昌義

1 中日新聞社は、60年以上にわたり労働者に毎年支払ってきた手当である錬成費(年3000円)について、3年ごとに実施されている諸手当団交で議題とすることなく、2020年1月、経営環境の悪化などを理由として突如、廃止を決定した。

東京新聞労組は、廃止決定通告後の同年3月の団体交渉で、労使合意なく錬成費を廃止しないよう強く求めた。しかし、会社は決算全般について「来年度は赤字になるかも」「経費削減をしていかねば」などと抽象的な赤字宣伝等を繰り返すだけで、こと錬成費に関しては、なぜ廃止が必要なのかという具体的な根拠となる数字等を説明することは一切なかった。1400億円を超える膨大な利益剰余金を持ち、同年3月末決算でも15億円余の当期純利益が見込まれていた状況で、年間原資800万円ほどの錬成費の廃止が不可欠と言えるような客観的データは何一つ示されることがないまま、会社は3月25日の錬成費支給日にこれを支給せず、廃止を強行した。組合は、このような会社の行為は不当労働行為であるとして、東京都労働委員会(都労委)に救済を申し立てた。

2 都労委は、2024年2月5日に交付した命令書で、「会社が錬成費の見直しを図るのであれば、3年ごとに開催される諸手当団交において十分な協議がなされることが望ましかった」「会社が諸手当団交では提案せずに、従前の支給日の約2か月前に廃止を通知したことは、いささか拙速な対応であった」としながらも、「会社の財務状況は必ずしも良好ではなかった」と会社の言い分を鵜呑みにしたうえ、2020年3月の団体交渉においても「錬成費廃止につきその根拠となる資料を示して相応の説明をしている」「錬成費廃止の理由として挙げる財務状況について、その根拠となる資料を示して相応の説明をしていた」などと、会社の対応を評価して不当労働行為の成立を否定し、組合の救済申し立てを棄却した。

しかし、実際には、2020年3月の団交で会社が提示したのは、春闘団交で毎年開示している決算見込みの数字にすぎない。前述のとおり、2ケタ億の黒字決算見込みが説明された同月の団交で、錬成費を廃止しなければならないことを裏付ける財務資料など、会社は一切提示しなかった。

会社は、裁判所や労働委員会で争いになって初めて、「5年後の損益収支と資金収支予測」なる社内文書を提出し、これを錬成費廃止の最大の根拠としたが、そもそもこのような文書は団体交渉では全く開示されなかったものである。

3 今回のような都労委の判断が通るなら、客観的裏付けのない抽象的な「経営危機」や「経費削減の必要性」を言い続けさえすれば、団交で具体的根拠となる資料や情報を開示しなくとも不誠実団交に問われないことになる。都労委は、労働者が団結することを擁護し、労働関係の公正な調整を図ることを目的した機関である労働委員会としての役割を放棄したものと言わざるを得ない。 リーマンショック時を除き万年黒字であることや、膨大な内部留保、極めて高い自己資本比率など経営の全体像を無視し、単年度の動向や恣意的な懸念のみで労働条件の不利益変更を強いる新聞経営者を免罪する都労委の判断は断じて許されない。本件と同じような手法の不利益変更が全国の新聞社に広がることを強く危惧している。私たちは不当な棄却命令に屈することなく、労働者の権利を守るため、引き続き全力を尽くす決意である。 

以上