労連声明:緊急事態宣言下での市民の「知る権利」を守るために
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍晋三首相は7日に「緊急事態宣言」を出す考えを表明しました。報道機関として、市民への正確な情報提供と、強い権限を持つ政府や自治体が適切に権限を行使しているかの監視が重要になる一方で、取材を行う記者の安全確保も喫緊の課題です。収束時期が見通せないなか、それらを両立し、市民の「知る権利」に資する持続可能な報道の体制づくりが急務です。政府などの公的機関や報道機関に以下の対策を早急に進めるよう求めます。
記者会見などの「質疑権」と「安全性」の両立
●感染拡大の状況やその対策について、記者が質疑を行う記者会見の重要性が増す一方、会見場の安全性が十分に確保されていない状況があります。特に取材拠点の一つである厚生労働省では、1月の国内初の感染確認以降、密集した空間のなかでの記者会見が続けられています。防衛省の対応を参考に、各省庁において、それぞれが十分な間隔を空けて取材ができる広めの会議室や講堂に会見場を早急に移設すべきだと考えます。
●安全性を確保するため、政治家などが10分以上の「冒頭発言」を行う場合には、あらかじめ「冒頭発言」と「質疑」を分離して実施し、記者会見の主である「質疑」の時間を十分に確保するよう求めます。
●ネット会議システムなどを活用し、会見場に集まらなくても質疑に参加できるオンライン上の記者会見・ブリーフの導入を求めます。安全性を確保するとともに、学校の休校なども相次ぎ、通常の出勤が困難な記者も増えるなか、多様な角度からの質疑・検証を行ううえで必要なためです。
●今回の事態はさまざまな分野と関連しており、多様な角度からの質疑が保障されるべきです。記者登録制を導入し、「大本営発表」一色に染まった戦前の報道の過ちを繰り返さないためにも、質疑権の確保は重要です。報道機関側は、公権力側から「記者の人数制限」を要請された場合には慎重な対応が必要です。
●庁舎内への報道関係者の入庁制限には反対します。その一方で、万が一の備えとして、報道機関側は自前の取材拠点を確保すべきと考えます。永田町・霞ケ関周辺で、300人収容の会見場がある「日本記者クラブ」の活用も含めて対応を検討することを求めます。
公文書等による説明責任の強化など
●政府は3月10日、新型コロナウイルス感染症への対応について、行政文書管理ガイドラインに定めのある「歴史的緊急事態」に該当すると閣議了解で決定しています。政府内の会議について、会議録の作成と早急な公開を求めます。特に従来、報道機関に公開されていた会議については、オンライン化するか、音声データを報道機関に即時公開するよう求めます。また、報道機関側も、従来の密着型の取材の継続が難しくなるなか、公権力の「説明責任の強化」を業界あげて具体的に求める必要があります。
●緊急事態宣言が発令されると、NHKが「指定公共団体」として、新型コロナウイルス対策に関して首相や都道府県知事の指示を受ける対象になります。報道機関への過度な介入は危険です。また、新型コロナウイルスへの対応を理由に、批判的な言説を封じるような公権力の動きがあります。過度な報道自粛要請には連帯して抗議しましょう。
2020年4月7日
日本新聞労働組合連合(新聞労連)
中央執行委員長 南 彰