最後にちょっと教育との関係をお話ししておきたいと思います。教育もメディアも本来、政治権力が支配してはいけない分野です。政治的な権力からは独立していなければならない。政治的な権力と癒着した形で報道されることもいけませんし、教育が行われるのもいけない。それは民主主義を覆していく、民主主義を掘り崩していくことになると思いますね。
 その教育の中でも、このところにわかにクローズアップされているのは「主権者教育」なんですけども、これは18歳選挙権、投票権というものが法的に認められたことが大きなきっかけになってます。
 その中で、新聞を主権者教育に使っていくというのは非常に大事なことだと思っているんですね。NIE= Newspaper in Education =という言葉がありますけども。
 文部科学省も、この主権者教育に関しては2015年の10月に通知を出しまして ――「高等学校等における政治的教養の教育等、高等学校等の生徒による政治的活動等について」なんていうタイトルのものですけども ―― この中で、現実の具体的な政治的事象を取り扱うことは重要だと言ってるんですね。
 現実の具体的な政治的事象とは、加計学園問題でもいいわけですよ。加計学園問題、森友学園問題というものを、高等学校の授業で取り扱っていいですよ、というか、取り扱うことは重要だと言ってるわけですね。これは非常に画期的なことを言ってるんです、文部科学省としては。しかし、その際に、教師は自分の意見を言っちゃいけない、と言ってるわけですね。
 これは非常に問題で、ドイツでは「ボイステルバッハ・コンセンサス」というものがあって ―― 政治教育については政府が決めたルールではなくて、当事者である学者や教育者が集まって1976年、ずいぶん昔に作られたものですけども ―― 教師は自分の意見を持ってることは当たり前だから生徒の前で言ってもいいと。しかし、自分の意見で生徒たちを圧倒してはいけない。俺が言うことが正しいんだと言って押し付けてはいけないと。
 それから「論争性の原則」といって、政治的にも学問的にも対立した考え方がある場合には、対立があるんだ、異なる意見があるんだということを、そのまま生徒にちゃんと教えなきゃいけないと。教師が一方の意見を持っていたとしても、もう一方の意見があるんだということを、きちんと生徒に伝える。
 その上で「生徒思考の原則」として、生徒たちに考えさせることが大事なんだと。こういう考え方ですね。これは非常に真っ当な政治教育の考え方だと思います。
 その中でNIEということをやるんであれば、やっぱり新聞は複数必要なんですよね。ですから、実は文部科学省では総務省と交渉して、各学校で使う運営費の中に、新聞を2つ以上取るための購読料金を算入してるんですね。ですから、中学校でも高等学校でも新聞は2紙取ってほしいわけです。
 ただ、それが偏った2紙ではいけませんので、産経新聞を取るんだったら東京新聞、ここ(岡山)にはないかもしれませんが。読売新聞を取るんだったら朝日新聞も取ってほしいと、毎日新聞でもいいですけど。とにかく、朝日か毎日か東京新聞か赤旗かを一方で、もう一方で日経か読売か産経か自由新報か、2つのタイプの新聞を取って、社説に書いてることが違うね、というふうに見て学ぶ。これは非常にいい学び方だと思いますね。