第2部 パネル討論

こんなにおかしい、山陽新聞の加計疑惑報道

元文部科学事務次官    前川 喜平さん
ジャーナリスト      三宅 勝久さん
新聞労連 中央執行委員長     南 彰
山陽新聞労働組合 書記長    藤井 正人

南彰・新聞労連委員長 いま前川さんのほうから加計学園問題の一連の経緯について、かなり具体的なお話をいただいたんですが、それがいったい、岡山の県紙である「山陽新聞」でどのように報道されていたのかを、前の画面でご紹介したいと思います。みなさんのお手元の資料の中でも「比べてみました。全国の地方紙の加計報道」という紙が入っていると思うので、それも併せてご覧いただければと思います。

加計学園問題 発覚時 (2017年5月18日朝刊)

中国新聞1面・トップ「加計学園の獣医学部新設 『総理の意向』記載文書 民進入手 文科省・内閣府やりとり」
3面・トップ「『官僚の忖度』再び焦点 官邸は否定 新たな火種か」
新潟日報1面・2番手「学部新設『総理の意向』加計学園計画 民進『文科省に文書』」
2面・トップ「加計学園 学部開設問題『官僚の忖度』再び焦点 新たな火種か 真偽は」
山陽新聞1面・記事なし
2面・3段見出し「加計学園獣医学部 新設『総理の意向』文書入手 民進、総理を追及」

地方紙46紙のうち、中日新聞、愛媛新聞、西日本新聞16紙が1面トップ。北海道新聞、山陰中央新報など12紙が1面掲載。1面に記事がないのは河北新報、北國新聞、静岡新聞、山陽新聞など18紙

 前川さんからお話があったように、2017年5月16日の夜から17日にかけて、NHKと朝日のさまざまな報道が繰り広げられた結果、17日の国会で「総理のご意向」という文書が取り上げられます。それを18日の朝刊で、地方紙も含めて各紙報道するんですが、これは(岡山県の)隣、広島県の「中国新聞」です。一面トップに「総理のご意向」文書で、三面にも関連記事が載っています。
 次は、一面の2番手に「総理の意向」という文書がある。(二面に)「『官僚の忖度』再び焦点」というのがある。これは、山陽新聞とほぼ同規模の部数の「新潟日報」の紙面構成です。
 ところが「山陽新聞」なんですが、一面には加計の記事はありません。二面に記事が載っているんですけど、まあずいぶん下の方にあるわけです。初報の段階からこんな状況だったわけです。

前川喜平さん記者会見  (2017年5月26日朝刊)

中国新聞1面・トップ「加計学園問題 文書『確実に存在』前川前次官が会見 『行政ゆがめられた』」
2面・トップ「野党 反転攻勢狙う 加計文書『説明責任 政府に』」
3面・トップ「表層深層 捨て身の『告発』政権直撃 加計学園問題 怪文書扱い揺らぐ 圧力や関与 次の焦点」
第2社会面・トップ「前次官 『私が受け取った』文科省へ思い複雑」
新潟日報1面・トップ「加計文書『確実に存在』獣医学部新設巡り 文科前次官が証言」
2面・トップ「政局最前線 攻める野党、与党防戦 『爆弾証言』国会に風雲」
3面・トップ「表層深層 捨て身の告発 政権直撃 加計問題で文科前次官会見 『怪文書』扱い揺らぐ」
第1社会面・トップ「『行政ゆがめられた』 加計学園問題 前次官会見 政権の説明を覆す 文科省は動揺、理解の声も」
山陽新聞1面・2番手「記録文書『確実に存在』加計学園 学部新設問題 文科前次官証言」
2面トップ「表彰深層 加計問題 前次官証言 捨て身の告発 政権直撃 『怪文書』扱い揺らぐ」

地方紙46紙のうち、北海道新聞、河北新報、京都新聞、神戸新聞など36紙が1面トップ。茨城新聞、伊勢新聞、山陽新聞、佐賀新聞、熊本日日新聞、南日本新聞の6紙が1面2番手以下。1面に記事がないのは上毛新聞、埼玉新聞、千葉日報、紀伊民報の4紙(※新聞労連調べ)

 次、先ほど前川さんが会見の話を言われてましたけど、2017年5月25日に会見をして、26日に各紙が一斉に報道したんですが、隣の「中国新聞」は一面トップで「文書確実に存在した」とある。二面に「野党が説明責任を政府に求める」。(隣の)三面も見開き展開で「捨て身の『告発』政権直撃」と。さらに社会面で「私(前川)がこの文書を受け取った」ということで、4個面で展開されてます。
 同じく「新潟日報」のその日の紙面ですが、これも一面トップで文書の存在を報じ、二面、三面、社会面と、同じく4個面で展開しています。
 全国で地方紙は46紙あるんですが、新聞労連の調べでは36紙、78.2%が一面トップで、この文書の存在を当時の事務次官だった前川さんが明らかにしたと報じているんです。
 ところが「山陽新聞」。さすがに一面には置きました。しかし、一面の2番手ですね。地元の加計学園が絡む話であるにもかかわらず、78.2%の一面トップに置いていないんです。しかも、関連記事は二面だけです。ほかは、先ほど見たように、4個面とかに置いてるにもかかわらずですね。

加計孝太郎理事長・岡山市で初会見(18年6月20日朝刊)

中国新聞1面・3番手「加計氏 首相面会を否定 問題後初の会見 愛媛県に陳謝」
3面・トップ「表層深層 拭えぬ疑惑 幕引き遠く 加計理事長会見 具体的説明欠き『逆効果』」
関連記事「『もっと早くやれた』愛媛知事が会見批判」「2時間前に通告 地元記者クラブだけ 一方的対応 批判も」
新潟日報1面・2番手「加計氏 首相面会を否定 愛媛県文書 誤情報伝達を謝罪」
2面・トップ「表層深層 幕引き図るも『逆効果』 加計理事長会見 具体的説明なく 疑惑払拭できず」
関連記事「突然の会見通告 一方的対応に批判も」
山陽新聞1面・記事なし
2面・トップ「首相面会『記憶、記録ない』 獣医学部新設 加計氏初会見 虚偽報告を陳謝」
「加計氏の一問一答」

地方紙46紙のうち、愛媛新聞のみが1面トップ。河北新報、山形新聞、神奈川新聞、新潟日報、中日新聞、中国新聞の6紙が1面2番手以下。1面に記事がないのは39紙。ただし、大半の社が「表層深層」など会見の手法に疑問を投げ掛ける記事を掲載している。

 次、加計理事長が昨年(2018年)の6月19日に記者会見をした時なんですが、「中国新聞」は一面に記事を置いています。首相面会を否定したと。
 さらに、三面に関連記事がありまして、かなり大ぶりに記事があるんですが、この時に焦点になったのは、先ほど前川さんからも話があったように、会見のやり方について相当批判があったわけです。
2時間前に突然「会見をやりますよ」と。しかも、前日に大阪で大きな地震が起きて、みんなバタバタしてるときに会見をやると通告をしてきて、しかも、地元の記者クラブの人間しか入れないと。しかも(サッカー)ワールドカップの日本戦の日と合わせてきたんですね。愛媛県知事も「もっと早くやれたんじゃないか」という、批判の大合唱の中での記者会見だったので、会見の内容だけではなくて、その手法も極めて問われたわけです。
その点は「新潟日報」も同じように、一面に「加計孝太郎理事長が首相面会を否定」とした上で、二面にはやっぱり会見方法の批判記事を置いているんです。
 ところが「山陽新聞」は、やっぱりまた朝刊には一面に記事はありませんでした。19日の夕刊に、ちょっと一面に記事は出しているんですけども、朝刊と夕刊の部数にはだいぶ差がありますね。朝刊は40万部ぐらいに対して、夕刊は3万部。だから「山陽新聞」を取っているほとんどの読者にとっては、一面に加計理事長が会見をしたときの記事がありません。
 さらに、二面に関連記事があります。各社、会見方法を批判してたんですけど、会見の批判は「山陽新聞」ではこの赤の部分だけなんです。何と書いてあるかというと、愛媛県知事の「もっと早くやれたのではないか」という一言があるだけで、もう一つ、今治の市長の「会見は評価する」というコメントで締めくくられている。
 批判をしているんだか、ただ単に賛否両論を載せただけなのか。全く会見方法の批判記事として成立していない。そういう紙面展開でした。

 こうした加計学園の報道の問題については、山陽新聞労組のメンバーが再三、団体交渉などで経営陣に指摘をしてきました。もっとしっかり報道すべきではないか、と。時の政権の運営にかかわる話であって、それを報道しないのは岡山の県民・市民の知る権利に反することではないか、と主張してきたんです。
 しかし、日下取締役という労務・編集担当が、昨年(2018年)6月5日の交渉の時には「地方紙として、もう少し加計学園に対して温かみある報道をしたらどうか、という声が多い」と反論してきた。(組合側が)「一面に掲載されていないじゃないか」と再三指摘すると、(日下取締役は)「一面に掲載してもおかしくはないと思うけども、二面でも十分、山陽新聞としてはちゃんと扱っていると思う」。昨年10月31日の交渉では「是々非々で問題点は載せている」「忖度というほどではない」と繰り返しています。
 じゃあ、どのぐらい(他紙と)差がついているかというと、お隣の「中国新聞」はこの間、加計学園問題の社説というのは、2017年5月19日に最初に出てから18年6月20日までに15本の社説が出ています。一方で「山陽新聞」の加計問題の社説というのは、地元の話であるにもかかわらず、わずか3本しかないんです。もうこの差は歴然、5倍の差がある。

 さらに、日下取締役が「地元紙として温かみある報道をしなくちゃいけない」と。これはまあ、地元紙として県民・市民に対して愛情を注ぐ、そういう温かみある、それ自体はいいと思うんですけど、じゃあ、それも本当なんだろうか?
 2018年5月末に、加計学園教職員組合が声明を出しています。こういう地元の岡山理科大学の先生たちが声を上げているわけです。「県などに虚偽の説明をしたことは、自治体や国民への重大な背信行為。教育機関としても許されない」「教職員の地道な教育への努力を根底から台無しにする行為だ」と。「加計孝太郎理事長らに、公の場で説明するよう要望書も提出している」。そういう見解を明らかにしたんですね。
 これは共同通信や全国紙は記事として執筆した。特に「山陽新聞」であったり、隣の「中国新聞」など全国の地方紙に、共同通信は記事を配信しています。「加計理事長らは公の場で説明を/教職員組合」という記事が配信されているんです。
広島の「中国新聞」は、これを6月1日の朝刊二面で掲載しているんですが、なんと「山陽新聞」は地元の大学の先生たちが現場で上げている声を記事にしてないんですね。掲載していない。これが、はたして「地元紙として温かみある報道」だと言えるのか、ということなんです。
 「これでいいのか、山陽新聞」というのが今日のテーマです。これから、前川喜平さんと、元山陽新聞記者で、加計学園問題の報道のあり方を含めて、いろいろと多岐にわたって取材をされているジャーナリストの三宅勝久さんに、山陽新聞の報道のあり方はこれでいいのかということを議論していただきたいと思います。
 それでは、三宅さんのほうから簡単に自己紹介をしていただいてから、前川さんの話を受けながら「山陽新聞」の加計報道の問題点をお話しいただけますでしょうか。